2017 年 49 巻 1 号 p. 81-88
本研究は,イタリア・ゴシック期のフレスコ画に多用された円光技法について,実証実験を通して明らかにするものである。これまで,フィレンツェのサンタ・クローチェ教会主礼拝堂壁画『聖十字架物語』の修復に際して得られた研究資料等に基づき,チェンニーノ・チェンニーニの技法書に則って当時のジョット派の円光技法を解明した。次に,調査をフィレンツェ派の円光に拡大したところ,ほとんどがジョット派,つまりチェンニーニの技法とほぼ同じであった中,初期ルネサンスの巨匠フラ・アンジェリコの円光は大きく違っていた。当該の円光が採用された作品は,彼の傑作『受胎告知』と『磔と聖人たち』であり,この二作品に導入された円光にも違いが確認できた。前稿で解明した『受胎告知』の円光技法につづき,本稿では『磔と聖人たち』の円光技法を明らかにする。