2018 年 50 巻 1 号 p. 273-280
本研究の目的は,図工教育において児童の版画作品を見取る視点および指導方法を構成する具体的な手立てを提案することであった。作品を見取る視点を実際の視線行動と関連づけて調べるために,美術科教員4名と教育実習を経験した大学生4年生10名を対象に,図工の授業で創作された児童の版画作品を呈示刺激にして視線計測を行った。また,版画から読み取った情報から指導手順を構成し,ロールプレイしてもらった。実験の結果,視線の停留時間や移動時間に差はみられなかった。だが,視線移動の距離や時間のばらつきは美術科教員の方が小さく,また,大きな視線移動は美術科教員の方がより規則的な時間パターンで生じていた。また,美術科教員は授業の流れや使った素材,児童の創作過程を幅広く推測できるだけでなく,発想の展開,構図の決定,イメージを実現するための加筆といった造形に重要な観点を含んだ働きかけをしていた。