本研究は,鑑賞活動における言語と身体的経験の関わりについて,国語教師村上通哉の取り組みの検証を踏まえ,作家の本質的主題理解にまで深まる鑑賞構造を成立させた四つの対話構造i)文章や直筆,絵画を感じ取り自らの思いを伝え合う対話構造,ii)作家と鑑賞者の視点を重ね追体験する対話構造,iii)作家の直接的な身体性が鑑賞者側に浸透する対話構造,iv)対象と同化した自己を省察する対話構造を組み込んだ鑑賞活動を実践し,いかなる対話が介在したかを明らかするものである。彫刻家安藤榮作の協力を得て,i)~iv)の対話構造と同様の要素を組み込んだ鑑賞活動を設定した。検証の結果,日常生活の中で素材と出会い,他者や環境と関わり,作品に変えていく行為の中で,造形行為をとおして世界と繋がっていく作家自身の人間形成の過程を生徒に敷き写すことの重要さを確認できた。