本稿は,表現形式の実感的な理解から鑑賞作品のより深い解釈へつなげようとする,教育方法の有効性について探ることを目的としている。そこでは,新たな表現形式を確立しようとする作家が,過去に存在した作品・作家からどのように影響を受けたのかについて,子供自身の考察から把握させようとした。具体的には,ピカソ「泣く女」を主たる鑑賞作品,セザンヌ「果物籠のある静物」を比較作品としてキュビスムの手法の理解を主軸に据え,約140名の中学3年生を対象に教師と生徒の対話を中心とする授業を展開し,教育的可能性を実証した。そこではピカソの表現方法に対する疑問を喚起させ,そこからセザンヌの作品について不自然に感じる箇所を探すという観点に絞った授業を構築することで,生徒はキュビスムの表現形式の特徴について自ら理解を示し,更にピカソの作品のよさを深く感じ取ることができた。