2020 年 52 巻 1 号 p. 57-64
小学校及び中学校の次期〔2017年告示〕学習指導要領には,新たに「総則」と「特別活動」の文章に「自己実現」の言葉が記載された。他方,中学校の美術科の学習指導要領には,1998年告示学習指導要領から次期学習指導要領迄3期連続して「自己実現」の言葉が記載されている。しかしながら,現在も教員養成課程の美術専攻科では,自己実現を卒業研究のテーマに選ぶ学生が多く見受けられる。周知の通り,美術教育は個性を認め自尊心を育むとされているが,その一方で,美術教育によって自信を失くしたり自尊心が痛手を被ったりする事例もあり,美術教育を通した自己実現の難しさは知られるところである。そこで本論では,児童生徒の自己実現に寄与する美術教育の指導法を検討することを目的に,図画工作科及び美術科の教員養成課程の授業において取り上げる必要のある自己実現に関する知識及び理解内容を整理する。