2023 年 55 巻 1 号 p. 97-104
本研究の目的は19世紀イギリスの画家であるジョン・アトキンソン・グリムショーの作品を分析し,油絵具で夜景絵画を描く際の手法を明らかにする点にある。本論は第二部として1870年代以降の作品に焦点を当て,実見調査を基に考察を行った。彼の夜景絵画は70年代以降に柔らかい色調による情感を重視したものとなった。その主な造形上のポイントとして,補色を意識したグレートーンによる配色,構図を重視した下地の白と褐色の使い分けが明らかとなった。総じてグリムショーは油絵具の重層を重視した描画方法を採った。その顕著な実例として,本論では白黒の風景写真の上に油絵具で加筆された《Manchester》に着目した。これらの分析結果を踏まえ,筆者自身が実験制作を行い検証した。その結果,グリムショーが使用したとされるコーパルワニス主体の画用液による硬質なマチエールや,褐色の線の効果を確認することができた。