2015 年 10 巻 p. 116-122
【訳者解題】本稿はカヴァリエ・ブルー社から2007 年に出版された『私はどうして地理学者になったのか』の 一章を訳出したものである.この本では,1930 年代から1960 年代生まれまでの12 人の地理学者が,それぞれなぜこの分野を選んだのか,またどのように研究を進めてきたのかを語っている. カヴァリエ・ブルー社は同様のタイトルのシリーズを作っており,地理学者の巻は最初に出版された.シリーズに歴史学や社会学が入っていないことは重要だろう.編者のシルヴァン・アルマンは,「はじめに」の中で,他の社会科学と比べてこの学問分野の研究者や学生数が少ないことに言及している.フランスにおける地理学のプレゼンスは日本と比べればかなり大きいが(本書によれば,2005 年のデータで社会学の学生が約17,000 人なのに対し,地理学は12,000 人程度とのこと),それでも地理学はその内容が想像しづらい分野だということである.本書は,研究者になった人たちがどのように地理学を選んできたのか,そこで何をしてきたのかを示し,さらには付録の中でどこで勉強できるのか,どういう仕事につながりうるのかまで解説している.地理学か,歴史学か,社会学か,迷った学生たちが手に取り,自分の思いと比較しながら読んでいるところが想像できる. とはいえ,日本の学界からみたこの本の価値は,世界的に著名な人物から比較的若い研究者まで,フランスの地理学者の道程の一部を見ることができるということだろう.そこには,日本や英語圏の地理学者とは異なる関心や思考の広がりがあり,またそれが本人によって非常に明快に語られている.この12 人でフランス地理学が見て取れるとは言えないが,彼らの研究動向から知的好奇心を刺激されることは少なくない. 『都市地理学』への投稿に当たり,日本でもよく知られたポール・クラヴァルの章を訳出した.彼の手がけた地理学の広がりとともに,重鎮ともいえる学者の若いころの「脱線」なども含め,学会員の関心も高いと考える.日本語には訳されていない『都市の論理』についても概略を知ることができる.