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植生学会誌
Vol. 16 (1999) No. 2 p. 115-129

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http://doi.org/10.15031/vegsci.16.115

原著論文

  1.一属一種の日本固有の草本であるオサバグサ Pteridophyllum racemosum Sieb. et Zucc. (ケシ科)の分布と生育環境を現地調査と文献によって調べたところ,落葉広葉樹林に生育する集団(D型)と,常緑針葉樹林に生育する集団(C型)の二型に分けられた.
  2.D型は,奥羽山脈以西の青森,秋田,山形,宮城,福島,新潟県などの日本海側から記録され,標高280-1400mに分布していた.各地域での生育場所の数や広がりは小さく,その多くは小谷沿いの急斜面であった.
  3.C型は,岩手県,および関東・中部地方(栃木,東京,埼玉,山梨,長野,新潟,静岡,岐阜の各県)から記録され,多くは内陸から太平洋側に分布していた.1040-2565mの標高域でみられ,平坦地から緩斜面に生じ,各地域での生育場所の数や広がりは太きかった.
  4.C型とD型の分布域は,積雪量の多少とは対応せず,それぞれ,欝閉した亜高山帯針葉樹林が現在成立している地域(C型)としていない地域(D型),チョウセンゴヨウ,ヒメバラモミ,アカエゾマツなど最終氷期に繁栄した針葉樹が遺存する地域(C型)としない地域(D型),および最終氷期の針葉樹林が後氷期にも存続した地域(C型)と衰退した地域(D型)とに対応していた.
  5.これらのことから,オサバグサは,最終氷期には本州中部以北で地域の別なく針葉樹林に生じていた(C型)が,東北地方日本海側などでは後氷期の多雪化と温暖化による針葉樹林の後退とともに衰退・消滅し,辛うじて一部が沢筋斜面の落葉樹林下などに遺存した(D型)のではないかと考え,その結果,現在の分布態様が生じたと推論した.

Copyright © 1999 植生学会

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