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植生学会誌
Vol. 27 (2010) No. 1 p. 11-20

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http://doi.org/10.15031/vegsci.27.11

原著論文

  1. 釧路湿原南東部の矮生ハンノキ群落において,桿の成長パタン,着葉動態,養分利用特性を調査し,立地環境や群落の構造との関係を考察した.群落高の異なる3地点:Lサイト,MサイトおよびHサイトにプロットを設置し,植物による吸収がピークとなる7月と,吸収量がほぼゼロと考えられる11月に土壌の養分環境を測定した.株(クローン)密度と株あたりの桿数および当年枝数を計測し,着葉数と積算開葉数,緑葉と落葉の窒素とリンの濃度,および葉の純一次生産量を測定し,養分利用パラメータを算出した.
  2. 単位面積あたりの株密度はLサイトで高いが,株あたりの桿数は逆にHサイトで高く,桿の密度もHサイトで有意に大きい値を示した.株ごとの最大桿長と最大桿直径,面積あたりの材積は群落高とともに増加したが,いずれのサイトでも樹高成長の頭打ち傾向が見られ,特にLサイトでは肥大成長,伸長成長ともに著しく小さかった.
  3. 土壌水中の溶存態リンの濃度はHサイトで有意に高かったが,溶存態窒素の濃度にはサイト間に差は見られなかった.当年枝あたりの積算開葉数にはサイト間で差がなかったが,個葉の平均寿命はHサイトがLサイトより長かった.窒素,リンとも養分生産性はLサイト,Mサイトで高く,逆にリンの滞留時間はHサイトで長かった.Mサイト,Lサイトでの高いリン生産性は,葉に保持される養分量が少ないわりに,生産量は低くなかったことに起因し,Hサイトの長いリンの滞留時間は,個葉の平均寿命の長さに起因すると考えられた.
  4. 緑葉の養分濃度は窒素,リンともにLサイトで最も低かったが,養分濃度と再吸収率には相関がみられなかった.窒素はいずれのサイトでもほとんど再吸収されていなかった.リンの再吸収率は各サイトとも非常に高く,約50%が脱落前の葉から引き戻されていた.リンの再吸収率は季節の進行とともに低下した.Lサイトでは7月のみリンの再吸収率が他のサイトよりも有意に高く,後続の葉を展開するための養分として先行葉から養分が過剰に再吸収されたと考えられた.
  5. 年間の積算開葉数がサイト間で差が見られなかったことから,ハンノキでは養分条件によって葉数を可塑的に変化させることができない遺伝的な制約の存在することが示唆され,リンの再吸収機能における高い可塑性が冠水耐性や強い萌芽再生力とともに株の形態や着葉様式を変異させて,養分供給の少ない湿原域でのハンノキ林の発達を可能にした要因のひとつと考えられた.

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