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植生学会誌
Vol. 29 (2012) No. 2 p. 91-103

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http://doi.org/10.15031/vegsci.29.91

原著論文

多くの日本の湧水湿地(湧水によって形成された泥炭の見られない貧栄養の小湿地)では,異なる植物群落が空間的にモザイクを成している.本研究は,この植生パターンの発達に関わる機構を明らかにするため,1960年代から大きな植生変化が確認された大根山湿地(岐阜県)を事例として,湿地内の植生パターンと地下水位および堆積物の移動の分布とを比較した.堆積物の移動のトレーサーとして,大気圏核実験に由来する放射性降下物^<137>Csを用いた.湿地内に出現する主要な3つの種(種群)の分布範囲をみると,ミカヅキグサ属は最も地下水位の高い部分,樹高1m以上の木本種(つまり灌木林)は最も地下水位の低い部分,ヌマガヤはその中間に位置していた.灌木林の主要構成種であるアカマツは,湿地全体に分布していたが,湿潤を好む群落内では生育が悪く,乾燥を好む群落内では生育が良かった.表層堆積物の状態は,地下水位の高い部分では侵食傾向で薄く,地下水位の低い部分では堆積傾向で厚かった.以上の結果から,湧水湿地内では,地下水位は植生タイプを決定する重要な因子の一つであると考えられた.また,地下水位は土砂の移動のような二次的な因子によって,湿地内において空間的な差異が生じることがある.この地形学的な構造が,湧水湿地での植生パターンの形成に関与していると考えられた.さらに,湧水湿地内の植生遷移は供給される地下水の変化によって引き起こされる場合があると推定された.

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