J-STAGE トップ  >  資料トップ  > 書誌事項

植生学会誌
Vol. 32 (2015) No. 2 p. 95-116

記事言語:

http://doi.org/10.15031/vegsci.32.95

原著論文

1. 屋久島低地部のスギ人工林における照葉樹林構成種のハビタットとしての機能について検討するために,下層植生(低木層および草本層)の発達したスギ人工林を対象に,植生調査を行った.この下層の発達したスギ人工林の種組成および種多様性(種多様性の尺度は調査区あたりの出現種数)の特徴を明らかにするために,先行研究で収集された照葉二次林,照葉原生林の植生調査資料を用い,3森林タイプ間で比較解析を行った.
2. 下層植生の発達したスギ人工林において第一低木層に到達していた樹種は,トキワガキ,モクタチバナ,ヤマビワ,ヒメユズリハなど,被食散布型のものが主であった.屋久島の照葉樹林の代表的な林冠構成種である重力散布型のスダジイ,イスノキも第一低木層でみられたが,その出現頻度や平均被度は被食散布型の樹種のそれと比較して小さかった.スギ人工林では,これら被食散布型の一部の樹種が優勢に下層植生を形成していくと考えられた.
3. 照葉樹林構成種の種多様性はいずれの森林タイプでも常緑高木,常緑低木,常緑木生藤本,地上生シダで高く,夏緑低木や草本では低かった.この傾向は,年間を通じて温暖湿潤な屋久島低地部が常緑性の木本種や比較的大型の地上生シダの生育に適しており,これらとの競合により夏緑性の種や短茎の草本が排除されやすい環境であることに起因していると考えられた.
4. 群落適合度にもとづく表操作と調査区あたりの出現種数の比較から,スギ人工林では地上生シダが豊富であり,照葉樹林構成種の種多様性は照葉二次林と同程度であることがわかった.一方,スギ人工林では常緑高木,常緑低木,着生シダが貧弱で欠落傾向にあり,照葉樹林構成種の種多様性は照葉原生林に及ばないことがわかった.このような種組成および種多様性の差異は,スギ人工林の造成・管理時の人為攪乱と,人為攪乱に伴う立地環境の変化に起因すると考えられた.
5. 常在度級III以上を示した照葉樹林構成種の種数比率はスギ人工林と照葉樹林で25%前後と同程度であった.また,照葉樹林で常在度級III以上を示した照葉樹林樹林構成種の約66%がスギ人工林でも常在度級III以上を示し,普通種として出現していた.一方,照葉樹林で常在度級I以下を示した照葉樹林構成種のうち,スギ人工林で常在度級III以上を示したものは約10%と少なかった.
6. 屋久島低地部のスギ人工林は照葉樹林構成種のハビタットとして重要な存在といえる一方,人工林管理の継続される林分が有する一時的ハビタットとしての機能のみでは照葉樹林構成種の全ての要素を保全することは困難であり,その実現のためには,林相転換による永続的ハビタットの創出が不可欠と考えられた.

Copyright © 2015 植生学会

記事ツール

この記事を共有