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植生学会誌
Vol. 33 (2016) No. 1 p. 33-43

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http://doi.org/10.15031/vegsci.33.33

原著論文

1. ロシア沿海地方最南部ウスリー川源流域でチョウセンヒメバラモミ-チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林の土壌乾湿分布を調査し,その結果から中部日本山岳域の最終氷期以来の植生変遷を展望した.
2. 土壌乾湿傾度に沿って,乾性から中湿性立地ではモンゴリナラが優占し,イタヤカエデ,ヤエガワカンバ,ときにアムールシナノキが混在する落葉広葉樹林に,チョウセンゴヨウが混生,チョウセンヒメバラモミも点在分布するタイプの林分が分布していた.中湿性から湿潤立地ではチョウセンヒメバラモミが優占し,チョウセンゴヨウが混在する針葉樹林に,イタヤカエデ,アムールシナノキ,ときにチョウセンミネバリが混在するチョウセンヒメバラモミ-チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林が成立していた.最も湿潤な立地ではドロヤナギ,ハルニレ,ヤチダモを主体とし,チョウセンヒメバラモミが散在する,よく発達した河畔林が成立していた.チョウセンヒメバラモミ-チョウセンゴヨウ-落葉広葉樹混交林全体としては乾性立地よりも中湿性から湿潤立地がより適した分布地といえる.
3. 沿海地方のチョウセンヒメバラモミの土壌乾湿分布から,バラモミ節樹木は最終氷期時には,現在の分布とは異なり,斜面中・下部から渓流域の河岸段丘や氾濫原に分布の本拠があった可能性が高い.チョウセンゴヨウは,チョウセンヒメバラモミと比べると,やや乾性な立地が分布適域であった.
4. 中部日本の植生変遷を展望すると,最終氷期には,低地・低山帯では,大陸型の亜寒帯性針葉樹林要素とされたバラモミ節樹木,チョウセンゴヨウが,実際には,中湿性から湿潤立地を中心に,異なる落葉広葉樹と混交しながら冷温帯林を構成していた.山地帯の乾性から中湿性立地には現在とほぼ同じ構成のトウヒ,シラベ,コメツガ,時にバラモミ節樹木,チョウセンゴヨウを含む常緑針葉樹疎林が分布していた.湿潤立地にはハイマツ低木林やダケカンバ林,オオシラビソ小林分などが点在していた.これは現在のシホテ-アリニ山脈の垂直分布と類似しており,現存する植生垂直分布と整合している.
5. 後氷期には湿潤,多雪化で土壌形成が進み,バラモミ節樹木やチョウセンゴヨウは亜高山帯の岩礫地に追いやられた.とりわけ,バラモミ節樹木の衰退には多雪化が大きく影響した可能性がある.かわって山地帯では立地ごとに異なる落葉広葉樹林が低地・低山帯から広がった.
6. バラモミ節樹木やチョウセンゴヨウが分布する立地は大型植物化石が堆積・残存しやすく,そのために産出量も多くなる.一方,トウヒ,シラベ,コメツガが分布していた立地は大型植物化石が堆積しにくく,そのために産出量も少ないと考えられる.このことから直ちに,トウヒ,シラベ,コメツガが最終氷期当時,現在よりも分布量が少なかったとみなすことは危険である.

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