植生学会誌
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短報
海浜植物ウンランの海流散布の可能性
黒田 有寿茂藤原 道郎澤田 佳宏服部 保
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2018 年 35 巻 2 号 p. 117-124

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抄録

1. 絶滅危惧の状況にある海浜植物の海流散布能力を把握していくことは,その生物地理・系統地理についての理解だけでなく,保全上の留意点の把握に向けても重要と考えられる.本研究では,関東南部以西の太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸で減少・絶滅が進行している海浜植物ウンランの海流散布の可能性を評価するために,NaCl水溶液を用いて種子の浮遊能力と接触後の発芽・出芽能力を調べた.

2. 浮遊能力試験では90%以上の種子が1ヶ月以上NaCl水溶液に浮かび続けた.また,室内発芽試験においてNaCl水溶液へ30日間接触させた種子の最終発芽率は接触0日間のそれと比較して低かったものの40%以上を示したほか,野外での播種試験では60日間接触させた種子の最終出芽率と接触0日間のそれとで差は認められなかった.これらの結果から,ウンラン種子は海水への浮遊能力と海水接触後の発芽・出芽能力を備えており,本種は長期間の海流散布が可能な種と考えられた.

3. 対馬海流と黒潮の流れを考慮すると,ウンランが連続的に分布している日本海沿岸や北海道・東北地方の太平洋沿岸,またさらに北方域から,絶滅危惧の状況にある関東南部以西の太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸へ種子が漂着する可能性はほとんどないと考えられる.これに対し,近畿地方の太平洋沿岸から中部・関東地方の太平洋沿岸へ,また瀬戸内海沿岸の海岸間で種子が漂着する可能性はより高いと考えられる.このことから,ウンランが絶滅危惧の状況にある関東南部以西の太平洋沿岸や瀬戸内海沿岸で本種の保全・再生を図っていくためには,種子供給源となりうる既存の個体群をそれぞれの地域で維持していくことが重要といえる.

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