植生学会誌
Online ISSN : 2189-4809
Print ISSN : 1342-2448
原著論文
八ヶ岳火山群,硫黄岳・横岳鞍部におけるコマクサの分布に関する地生態学的研究
小泉 武栄竹内 真冴也
著者情報
ジャーナル フリー

2018 年 35 巻 2 号 p. 89-107

詳細
抄録

1. 八ヶ岳の硫黄岳と横岳の鞍部を中心とする一帯には,コマクサが広範囲に生育している.その理由を探るために,コマクサ分布図を作成し,コマクサの生育する砂礫地に6つの測線と1調査地点を設置し,砂礫地の成因を火山地質学的な視点から検討した.

2. 砂礫地は主に赤や黒,黄のスコリアでできており,そこにコマクサが生育している.スコリアの粒径が小さいほど,コマクサは多く,粒径が大きい場所ではコマクサは生育しない.ごく一部に安山岩の溶岩が砕けてできた砂礫地があり,そこではコマクサは生育するが,数は少ない.スコリアは新鮮なものと,古いものに分けられ,前者は台座の頭のように新期の小噴火でもたらされたものである.しかし古いスコリアは,成層火山の時代の古い噴出物が,上に載っていた溶岩などの層が浸食によって取り去られたために,地表に露出したものである.

3. 硫黄岳-横岳稜線には10数万年前のスコリアが固まった,80 m もの厚さをもつ凝灰角礫岩や凝灰岩の層が広く露出しており,それが冬季の厳しい気候条件の下で風化し,分解してスコリアの粒子になり,コマクサの生育に適した砂礫地をつくり出した.これがこの地域の広大なコマクサの分布を支える最大の条件である.ただし凝灰角礫岩や凝灰岩の層が厚い場合は,斜面の途中で崖を形成し,そこは無植生になっている.

4. 凝灰角礫岩や凝灰岩が崩れてできた崖錐には,コマクサ以外の植物も多数生育している.これは崖錐堆積物中に安山岩の礫が含まれ,表層物質の動きを抑制しているためであると考える.その影響を受けてコマクサの株数は少なくなっている.

5. 稜線部や斜面上に溶岩層がある場合は,崖や岩塊地を作りやすい.しかし溶岩層が薄い場合は,凍結破砕作用によって破壊され,礫からなる立地をつくりだしている.そこに密度は低いが,コマクサが生育している.

著者関連情報
© 2018 植生学会
前の記事 次の記事
feedback
Top