植生学会誌
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原著論文
兵庫県南東部のアカマツ・コナラ二次林におけるカキノハグサの生育立地特性
黒田 有寿茂小舘 誓治
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2019 年 36 巻 1 号 p. 1-16

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抄録

1. カキノハグサは近畿,東海地方に分布する日本固有の多年生草本である.本研究では兵庫県南東部 (六甲山地,帝釈山地) のアカマツ・コナラ二次林におけるカキノハグサの生育地を調査地とし,その生育状況と立地環境の特徴を把握するために,分布調査,毎木調査,下層の植生調査,土壌調査を行った.また,本種の生育適地について検討するために個体密度と立地環境条件に関する調査を,国内における生育地の気候条件やハビタットの多様性について情報を得るために標本調査 (腊葉標本の閲覧と採集地情報の収集) を行った.

2. カキノハグサはいずれの山地においても主稜線周辺の頂部斜面に偏って分布しており,斜面下部や谷部では認められなかった.

3. 毎木調査の結果から,カキノハグサ生育地と非生育地の林分は,いずれも樹林の放置に伴い常緑広葉樹の繁茂が進行しているアカマツ・コナラ二次林と考えられた.一方,カキノハグサ生育地の林分は非生育地の林分と比較して落葉広葉樹がより多く,相対的に常緑樹の繁茂の程度が小さかった.また,カキノハグサ生育地の林分では多年生草本の組成比が高く,疎林,林縁,草原などを主なハビタットとする植物が多く含まれていた.

4. カキノハグサ生育地の林分は非生育地の林分と比較してL層の厚さ,F-H層の厚さ,電気伝導度が小さく,指標硬度が大きい傾向にあり,より浅く未熟な土壌に成立していた.一般化線形モデルによる解析では,カキノハグサの個体密度と開空度および指標硬度に正の相関が,個体密度とL層の厚さに負の相関が認められた.

5. 以上の野外調査の結果から,カキノハグサの生育適地はアカマツ・コナラ二次林の中でも森林構造や土壌の発達程度の低い林分であると推察された.本種の頂部斜面への偏った分布は,このような特徴をもつ二次遷移初期段階の群落が頂部斜面で残りやすいことに因っていると考えられた.

6. 標本調査では地形や植生タイプに関する記述として「山頂」,「林道沿い」,「grassy open ridge」など,森林タイプや光環境に関する記述として「明るい二次林林床」,「On sunny edge of Chamaecyparis plantation」などが確認された.これらは野外調査で認められたカキノハグサの分布状況や生育立地特性と共通性の高いものであった.また,採集地の標高および気候条件の範囲・度数分布から,本種の生育地の多くは暖温帯の照葉樹林成立域に含まれると判断された.

7. カキノハグサの生育地で常緑広葉樹の繁茂が認められた場合には,伐採・刈り取りにより植生遷移の進行を抑制し,光環境の改善を図ることがその保全に必要と考えられた.

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