植生学会誌
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原著論文
日本の本州中部におけるチョウセンミネバリ林の植物社会学的研究
設樂 拓人鈴木 伸一中村 幸人
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2021 年 38 巻 1 号 p. 49-66

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抄録

 本研究では,北東アジア大陸部に広域分布し,日本に隔離分布しているチョウセンミネバリ(カバノキ科)が日本の本州中部山岳において,どのような森林植生に生育するのかを明らかにするために,チョウセンミネバリが出現する森林植生(以下,チョウセンミネバリ林)の種組成およびその生育立地の調査を行った.本州中部山岳地域の19地点のチョウセンミネバリ林においてBraun-Blanquetの植物社会学的手法による植生調査を行った結果,本州中部のチョウセンミネバリ林は,(1)撹乱後に成立した若い林分であるヤシャブシ-チョウセンミネバリ群落,(2)渓谷沿いのがん角地や斜面中・下部,谷部にかけて針広混交林として成立するウラジロモミ-チョウセンミネバリ群落,(3)冷温帯の極相種であるブナやトチノキなどの落葉高木と,ヤマハンノキやミズナラといった二次林に多く出現する落葉広葉樹が混生するトチノキ-チョウセンミネバリ群落,(4)サワグルミ,カツラなど渓畔林の落葉広葉樹から構成されるサワグルミ-チョウセンミネバリ群落の4群落に区分された.さらに本研究では,本州中部のチョウセンミネバリ林で得られた植生調査資料をKrestov et al. (2006)による北東アジア大陸部のモンゴリナラクラスの植生調査資料と比較し,日本のチョウセンミネバリ林の種組成の特徴を検討した.その結果,北東アジア大陸部と日本のチョウセンミネバリ林の生育立地は類似していたが,種組成は大きく異なっていた.北東アジア大陸部ではチョウセンミネバリは冷温帯汎針広混交林(アムールシナノキ-チョウセンゴヨウオーダー)の標徴種であるのに対し,日本ではチョウセンミネバリ林はブナクラスに区分され,チョウセンミネバリは特定の植生単位の標徴種ではなく,複数の群落に出現する随伴種に区分された.

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