2021 年 38 巻 1 号 p. 81-93
1. 山梨県の乙女高原は刈取により維持され,大型双子葉草本が多い草原であったが,2005年頃からススキ群落に変化してきた.この時期はシカ(ニホンジカ)の増加と同調していた.
2. 主要11種の茎を地上10 cmで切断し,その後の生存率と植物高を継続測定したところ,双子葉草本9種のうち6種は枯れ,生存種も草丈が低くなった.これに対して,ススキとヤマハギは生存し,植物高も減少しなかった.
3. ススキを,6月,9月,11月,6・9月に刈取処理をし,5年間継続したところ,ススキの草丈は11月処理では180-200 cmを維持し,6月区ではやや低くなったまま維持した.これに対し,9月区と6・9月区では草丈が経年的に減少した.
4. シカの採食は双子葉草本には強い影響があるが,刈取処理よりは弱いから,ススキにとっては影響は弱く,乙女高原でのススキ群落化はシカの影響と考えるのが妥当であると考えた.
5. ススキ群落内に設置した15 m×15 mのシカ防除柵4年後の群落はススキが大幅に減少し,双子葉草本が優占した.群落多様度指数は柵外はH′ = 0.85だったが,柵内はH′ = 2.64と3倍も大きくなった.
6. 上層の優占種が大型双子葉草本からススキに変化することで,ヒメシダのような地表性の陽性植物が増加し,ミツバツチグリの場合,ススキ群落では低い草丈で面的に広がったが,双子葉草本が密生していると被度は減少して葉柄を伸長させた.
7. シカの影響は1)シカの嗜好性(不嗜好植物は食べない)の違い,2)採食に対する植物の反応(成長点のいちの違いによる再生力など)の違い,3)その結果による上層の優占種の変化による下層植物への間接効果,という異なるレベルで起きていることを示した.