植生学会誌
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原著論文
佐渡島の耕作放棄棚田における土壌散布体バンクの特徴と水生・湿生植物の復元に寄与する可能性
藤彦 祐貴中田 誠
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2022 年 39 巻 1 号 p. 1-13

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抄録

1. 耕作放棄後約40年が経過し,土壌中の散布体が寿命に近づいている可能性がある新潟県佐渡島の中山間地域にある棚田跡地において,土壌中の散布体バンクの特徴を把握し,それが水生・湿生植物の復元に寄与する可能性を検討した.

2. ヨシ群落と森林に遷移した棚田跡地の深さ5-15 cmと15-25 cmの土壌を用いて,4通りの水位条件で室内まきだし実験を行った.また,土壌を採取した棚田跡地の現生植生と,隣接する棚田復元ビオトープ群の植生調査を行った.

3. 室内まきだし実験では種子植物17種,シダ植物3種,蘚苔類3種,車軸藻類3種からなる26種,1357個体が発芽した.生育形別には,陸生植物8種,湿生植物9種,水生植物9種(抽水植物4種,沈水植物4種,浮遊植物1種)であった.

4. 室内まきだし実験の結果をGLMで解析した結果,沈水植物を除き,栽培水位が高いほど,また採取土壌が深いほど,発芽種数と個体数が少ない傾向を示した.また,森林群落は発芽個体数に対して負の効果があった.

5. 本研究では10種類の環境省レッドリスト掲載種を確認したが,湿生植物は含まれず,すべて水生植物であり,うち6種が沈水植物だった.室内まきだし実験では,車軸藻類3種を含む4種類の絶滅危惧種が発芽した.棚田復元ビオトープ群には7種類の絶滅危惧種が生育しており,まきだし実験との共通種はシャジクモ1種だった.

6. 室内まきだし実験で発芽した植物には,相対的に水位の浅い棚田復元ビオトープ群との共通種が多かった.これは,本調査地全体では陸生・湿生植物の種数が多くを占めるものの,室内まきだし実験では4通りの水位で栽培したため,陸生植物,湿生植物,水生植物などのさまざまな生育形の植物が発芽したためである.

7. ビオトープの水位を5-15 cmに保ち,耕作放棄棚田の,とくにヨシ群落の15-25 cmの土壌をまきだせば,より多くの沈水植物を復元できる可能性が本研究で示された.

8. 現生植生には見られない絶滅危惧種を含め,多数の植物を土壌散布体バンクより復元できたことから,耕作放棄後約40年が経過した棚田でも,地域の生物多様性を高める上で,復元対象としての一定の価値があることを本研究で示すことができた.とくに,本調査地は車軸藻類の復元ポテンシャルが高く,貴重な散布体バンクを有していた.

9. 耕作放棄棚田の土壌中に保存されている散布体バンクからの水生・湿生植物の復元とともに,既存のビオトープの管理も含めた,多様な手法を組み合わせた水生・湿生植物の再生・保全体制の構築が重要である.

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