2005 年 64 巻 1-2 号 p. 63-70
カワシンジュガイ類の幼生はサケ科魚類,特にタイセイヨウサケ属(Salmo)とサケ属(Oncorhynchus)に寄生するが,イワナ属(Salvelinus)にはほとんど寄生しない。日本のカワシンジュガイはサケ属のヤマメ(masu trout)とアマゴ(amago trout)に寄生するとされてきたが,最近になってイワナ(whitespotted char)にも寄生するという報告がなされた。信濃川水系には,寄主の異なる2つのカワシンジュガイ個体群が知られている。この2個体群における寄主選択性を比較するため,野外における魚類への寄生状況の調査とサケ科魚類へのグロキディウム幼生の寄生実験を行った。寄生中のグロキディウム幼生の成長曲線と脱落した稚貝の平均殻長には寄主の違いによる有意な差は見られなかったが,寄主選択性は個体群によって全く異なっていた。ヤマメは中部農具川では幼生の寄主であったが,逆さ川では寄主にならなかった。その逆に,イワナは中部農具川では寄主でなかったが,逆さ川では寄主であった。こうした寄主特異性の違いは,個体群間の変異というよりも,種が異なるためである可能性を示唆した。