Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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総説
軟体動物系統発生における多板類の重要性(<特集号>第2回国際ヒザラガイシンポジウム)
サルビニ-プラウエン L. v.
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2006 年 65 巻 1-2 号 p. 1-17

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抄録

多板綱の体制を介殻類や,無板類の溝腹綱・尾腔綱の体制と比較した。この比較研究は消化管構造の分化の程度や排泄器官の構造について特に注目して行なった。多板綱は枝状器官の発達,多数の鰓,殻板の独特な分化,歯舌歯の鉱物化,卵殻突起の形成,精子の特別な構造などの固有派生形質をもつ単系統群である。多板綱は無板類との間に次のような共有形質をもつ:キチン質のクチタラ層と,小棘や鱗片など石灰質の構造物(スクレライト)を生成する外套膜,側神経の直腸上連合,囲心腔背部が陥人してできる心臓(心室),繊毛の構造,おそらく腹側の縦走筋など。他方,多板綱は介穀類との間に次のような共有形質をもつ:中腸が長軸方向に3区分されること,すなわち食道,中腸腺が付属した胃,多少なりとも旋回する細い腸が区分されること。食道も特別な縦襞と繊毛帯をもつ前部と,腺の分布する対になった食道嚢部,および単純な後部食道に区分される。さらに消化管に関する顕著な共有形質は多板綱と単板類(Tryblidia)との間に見られるほとんど同一の歯舌保持器官である。この両者の近縁な関係は連続する背腹筋の形状・配置によっても支持される。もうひとつの重要な共有形質として,多板綱と介殻類は囲心管(pericardioducts)を"腎臓"に分化させていることがあげられる。すべての軟体動物は心室の上皮にある足細胞による限外濾過によって原尿を作るが,多板綱と介殻類だけがその変化させた囲心管によって原尿から(二次的な)尿を作り出す。これらの形質を比較研究した結果,多板綱は単板綱と近い類縁関係にあるのみならず,介殻類とともに単系統群Testariaとして認識されることを明らかにした。無板類と多板綱のみに共有される形質は共有派生形質ではなく共有原始形質と考えられる。これまでのいくつかの仮説に反して,多板綱は介殻類から派生した(すなわち1枚の貝殻が8枚に分割された)とは考えられず,無板類から,多板綱,そして単板綱へと向かう向上進化的な過程で出現したと考えられる。したがって多板綱の体制は原始的な無板類レベルからより派生的な介殻類レベルへの系統発生上の掛け橋としての役割を演じたと考えられる。

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© 2006 日本貝類学会
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