Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
日本産ナガニシ属の研究IV:ダイオウナガニシと2新種
P. カロモンM. A. スナイダー
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2008 年 67 巻 1-2 号 p. 1-13

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抄録

このシリーズの4報目として,日本産ナガニシとして記録されている有効なタクソンであるFusinus longissimus (Gmelin, 1791) ダイオウナガニシについて記述するとともに,黒田が「ゆめ蛤」の記事の中で仮の学名を与えていたが,これまで適格となっていなかった2タクサを新種として記載した。
Fusinus longissimus (Gmelin, 1791) ダイオウナガニシ(木村,1997)
殻はナガニシ属としては非常に大型(最大殻高 337 mm),堅固であるが殻質は薄く軽い。螺層の周縁はやや角張り,その上に丸く大きな瘤が並ぶ。殻表は細い螺脈で被われるが,周縁の疣の上では2~3本の強い螺肋となる。殻口は卵形で外唇肩部の疣に当たる部分がやや角張る。内唇の滑層はやや薄く,弱く板状となる。水管は長く,直線的。
分布:国内では小笠原諸島,紀伊半島と沖縄の伊江島から記録されているが稀である。海外ではフィリピン,台湾,ベトナム,及びニューカレドニアに分布する。
付記:Gmelin (1791) の記載の基になったChemnitz (1780) の図示標本の所在は不明であるが,図は種類の同定に問題ないため,この標本をレクトタイプに指定した。
本種はナガニシ属の中の最大種の一つであり,十分に成長した個体では,その大型のサイズと軽い貝殻,及び特徴的な周縁の疣列から他種と容易に区別される。日本産の種類の中でこれに近いサイズになるものとしては F. salisburyi Fulton, 1930 イトマキナガニシがあるが,後者は貝殻が厚く,螺層の膨らみと螺肋が強く,内唇が板状に発達することで明瞭に異なる。F. colus (Linnaeus, 1758) ホソニシも時に大型となることがあるが,より細長く,水管も長くより大きく曲がる。
Fusinus teretron n. sp. イボウネナガニシ(黒田,1949)
貝殻はこの属としては中型(最大 155.7 mm,平均 112.5 cm)。螺塔は細く殻頂に向かって緩やかに細まる。螺層上部には太く,間隔の広い螺肋があり,周縁は角張る。各螺層には4~6の一次螺肋があり,各螺層上部では体層に向かうにつれて細い間肋が現れる。螺塔下部では縫合の上の螺肋は弱まる。体層では縦肋は周縁でやや突出して疣状となり,螺肋と交差して角張る。殻口は卵型,外唇内側には螺条を持ち,これによって殻口縁は刻まれる。軸唇滑層は明瞭で,水管側 2/3 で板状となる。水管は細く,緩やかに湾曲する。殻色は汚白色で,微細な毛を生やした薄茶色の薄い殻皮を被る。
タイプ産地:「紀伊」。
タイプ標本:ホロタイプ,大阪市自然史博物館OMNH8026(吉良コレクション)。
分布:本種は現在のところ本州中部太平洋岸の,小笠原諸島・房総半島~紀伊半島西部と,土佐湾の二つの海域から知られており,生息深度は40~200 mの範囲である。
付記:本種に対して,黒田(1949)は「ゆめ蛤」の記事の中で本和名とともに F. anguliplicatus の学名を提唱しているが,この学名はその後今日まで適格となっていなかった。様々なコレクション中に標本が見られることから,本種は稀な種類ではないと考えられるが,図鑑や論文中では誤って同定されてきた。例えば,木村(1997: pl. 1, figs. 5, 6)は本種を「F. beckii (Reeve, 1848) サイヅチナガニシ」に,奥谷・土屋(2000: pl. 255, fig. 34)は「F. nodosoplicatus (Dunker, 1858) [sic! =1867]コブナガニシ」に同定している。これらのうち,F. beckii (Reeve, 1848) は国内に分布していない(本シリーズ第5報参照)。一方,コブナガニシの変異型の中には本種と近似するものもあるが,本種はより貝殻が薄く,コブナガニシに特徴的な肩の瘤列を欠き,より細かい縦肋と細い螺塔を持つことで区別される。F. perplexus (A. Adams, 1864) ナガニシは,分布域が重なり,サイズも近似しているが,本種の方が初期螺層の周縁が角張り,螺塔が高く,より細かい縦肋を持つことで明瞭に区別される。
Fusinus amadeus n. sp. コブシナガニシ(黒田,1949)
貝殻はこの属としては中型(最大 114.9 mm,平均 93.4 mm),薄質で軽く,体層はいくぶん洋ナシ型。螺層の周縁は円く,縫合で斜めに接する。螺層上部では縫合まで連続する多数の強い縦肋があるが,体層に近づくにつれて弱まって疣列となるか,全く消失する。初期螺層には5~6の強い螺肋があり,徐々に間肋が強まって次体層では9~10本となる。殻口はアーモンド形で内面は光沢が強い。外唇は成貝でも薄く,皺状となる。軸唇滑層は薄い。水管の長さは中庸で,通常やや直線的,先端に向かって徐々に細まるが,個体によっては末端側1/3で急激に細まることもある。殻色は汚白色で,胎殻付近が淡く褐色に染まることがある。殻皮は淡褐色で薄い。
タイプ産地:高知県沖,土佐湾。
タイプ標本:ホロタイプ,西宮市貝類館 NCKG007793(黒田コレクション)。
付記:本種も黒田(1949)によって未記載種であることが認められていたが,今日まで記載されていなかった。「ゆめ蛤」の記事や,標本のラベルに記された学名から判断して,黒田は本種に Fusinus grabaui の名前を用意していたことが明らかであるが,この学名は後に別タクソン F. grabaui Kuroda & Habe, 1952 に用いられており,後者は本シリーズ第3報の中で F. nodosoplicatus (Dunker, 1867) コブナガニシの表現型とみなされている。従って,本種に新たな名前を与え新種として記載した。
本種は,日本産のナガニシ属の種類の中で,洋ナシ型の殻形と薄い貝殻を持つことで,F. akitai Kuroda & Habe in Habe, 1961 ギボシナガニシに似るが,本種の方が小型で,螺管の膨らみが弱く,より顕著な縦肋を有することで区別される。海外の種類では,南オーストラリアに分布する F. pyrulatus (Reeve, 1847) が本種に最も近似するが,本種の方が縦肋がより角張り,螺層上部で肋間が広いことや,水管が細いことなどで区別できる。なお,Iredale (1924) はこの F. pyrulatus を単一模式として新しい属 Propefusus を立てているが,Fusinus ナガニシ属と形態的に区別できず,後者の異名とみなされる。

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© 2016 日本貝類学会
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