Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
九州南部におけるウミウサギガイのペア形成と繁殖行動
河合 渓
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2010 年 69 巻 1-2 号 p. 49-58

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抄録

ウミウサギガイOvula ovum(Linnaeus, 1758)は数個体で集団を形成し,それらの多くは雌雄のペアであると指摘されているが,その明確な理由が解明されていない。そのため,ウミウサギガイのペア形成と繁殖行動の関係について鹿児島県南薩摩市坊津の小さな湾内において2004年5月から2006年10月まで野外観察を行った。調査地の水温は8月ごろに最高水温30°Cを,3月ごろに最低水温15°Cを示す。対象とする個体群では殻長0.9 cm から9.8 cm の個体が観察され,成熟サイズは約7 cm,繁殖期間は低水温期とその後数ヶ月以外ということがすでに報告されている。ペア形成のタイプは大きく4つのタイプに分けられる:(1)2個体が近くに位置するペア,(2)交尾を行っているペア,(3)産卵を行っているメスの近くに他個体が位置するペア,(4)産卵を行っているメスの上にオス個体が位置し,交尾を行っているペア。観察されたペア形成数と繁殖個体数に有意な相関関係が見られた。ペア個体間の距離は繁殖期間中に短くなっており,ペア個体数は繁殖期間中に有意に多く観察された。また,ペア形成個体の追跡観察の結果,観察されたペアのうち44%のペアがなんらかな繁殖行動に関与していた。繁殖期間中には粘液で形成された透明な帯状物が数mにわたり形成されており,これがペア形成に大きく関与する可能性が考えられる。これらの結果はウミウサギガイのペア形成は明らかに繁殖行動と大きく関係していることを示している。

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