Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
南西日本産の珍奇なセンベイツキガイ類(ツキガイ科)の1新種及び近海の近似種
奥谷 喬司
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2011 年 69 巻 3-4 号 p. 115-122

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抄録

Cosel & Bouchet (2008) は西太平洋産の深海性ツキガイ科の多数の新属・新種を記載した。そのなかには,元海洋研究所の太田 秀博士がご退官直前に白鳳丸によって採集された二枚貝標本中にそれらに同定される種(死殻)があるほか,極めて特異な未記載の一新種も発見された。また一方,東大の総合研究博物館に収蔵されている故土田英治コレクションとかつて「しんかい2000」によってマヌス海盆から採集された殻もあったので,およそツキガイ科らしからぬ種を含む深海性の数種を紹介する。
Elliptiolucina ingens n. sp.アツセンベイツキガイ(新種・新称)(Figs. 1A, 2, 3)
殻長80.1 mm,殻高66.1 mm(ホロタイプ)。殻は亜楕円形で,厚質,左右にあまり膨れない。殻頂は小さい。小月面は明らか。楯面も深く掘れ込む。左殻の交板には弱いC型の擬歯があり,右殻には浅い擬歯槽がある。前閉殻筋痕後縁は鋸歯状。後閉殻筋痕は低位で背側が深く凹む。同心円状肋はない。死殻のみで,証拠はないが化学合成環境に棲むものと推定される。奄美大島沖の水深576~594 m。
Elliptiolucina magnifica Cosel & Bouchet, 2008 センベイツキガイ(新称:Fig. 1E)
右殻片。殻長68.5 mm, 殻高68.5 mm。前種よりやや薄手,膨らまず,かつ前後に長くやや方形。スールー海の水深520~1160 m。ホロタイプ以来第2番めの発見。
Rostrilucina anterostrata Cosel & Bouchet, 2008 シャクシツキガイモドキ(新称: Fig. 1D)
殻長43.1 mm,殻高33.9 mm前種に似て円盤状の殻表に同心円肋が密に分布するが,前縁がやや嘴状に突出上反する。フィリピン中部~奄美大島沖の水深550~640 m。
Dulcina musorstomi Cosel & Bouchet, 2008 ウスツキガイモドキ(新称:Fig. 1C)
殻長19.4 mm殻高16.0 mm。殻は円盤状でやや薄質,膨らみは弱く,ツキガイモドキのような同心円状の肋を持つ。殻頂から後腹隅にかけて浅い放射状溝が走る。小月面は高い襞に囲われる。交板は無歯であるが,前弧に微かな隆起がある。分布はフィリピンの水深205~246 mから奄美大島沖の水深576~594 m。
インド洋の200~350 ファゾムからE. A. Smithが“Cryptodonphilippinarum (Hanley, 1843)と同定した種に極めて近いが,Cosel & Bouchet はSmithの種は小型で小月面が長く,輪肋が密で,前閉殻筋痕の分岐点は更に長いとし,真のLucina philippinarum (= Austriella corrugata)は大きく,丸みのあるマングローブ湿地にすむシワツキガイであるという。
Dulcina sp. aff. guidoi Cosel & Bouchet, 2008 (Fig. 1E)
殻長74.4 mm+,殻高61.5 mm。フィリピン産のD. guidoi Cosel & Bouchet, 2008に近似すると思われるが,不完全な右殻と左殻の破片しかないので最終同定には至らない。マヌス海盆の水深1932 m。

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