Venus (Journal of the Malacological Society of Japan)
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原著
日本産ハマユウガイ科の1新種カクレハマユウ(二枚貝綱:ウミタケモドキ目:ハマユウガイ上科)
Brian Morton 芳賀 拓真
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2014 年 72 巻 1-4 号 p. 1-11

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抄録
黒潮影響下にある本州太平洋岸の水深 05~100 m より得られた Clavagellidae ハマユウガイ科 Dianademaダイアナハマユウ属(新称)の1新種を,Dianadema ikebei n. sp. カクレハマユウ(新種・新称)として記載する。なお,属のタイプ種である Dianadema multiangularis(Tate, 1887)には,ダイアナハマユウの和名を新称する。
本新種は殻長 ~810 mm,殻質薄く,灰白色。殻,石灰管ともに形態的変異が大きい。石灰管の腹部前方でもって他物に固着する。左殻はその全周が石灰管(adventitious crypt)の前部に癒着するが,右殻は石灰管の内部で遊離している。殻の背方外部にある背方小管(dorsal crown of tubules: 和術語新称)はよく発達し,前後に明瞭に2分割される。水管被管(adventitious tube: 和術語新称)は短く,約45°の角度で斜めに立ち上がる。閉殻筋跡は大きく丸く,不等で,後閉殻筋跡のほうが大きい。本新種は,1)長円形の丸い殻をもつこと,2)殻頂下に達する深い套線湾入があること,そして)3水管被管の前端断面がD型であることから,同属の全ての他種と容易に区別される。本新種はタイプ産地である和歌山県みなべ町堺沖のほか,千葉県館山市の沖ノ島沖からも知られる。
ダイアナハマユウ属は,弾帯受に載った内靭帯をもつこと,殻の背方外側に背方小管を生じること,石灰管の腹部前方で他物に固着することなどの特徴をもつため,同科の他属と区別される。本属の現生種は熱帯~亜熱帯域にかけて分布するとされるが,これまでオーストラリア周辺の南西太平洋に2種,そしてモーリシャス周辺のインド洋に1種の計3種が知られるのみであった。よって,本新種の発見は同属の日本及び北西太平洋,そして温帯域からの初記録となる。
本新種はこれまでに僅か5個体の死殻が知られるに過ぎない稀産種である。しかし,保存良好な標本群の検討によって,本新種はダイアナハマユウ属の種としては例外的に岩内生 (endolithic) であり,弱く固結した非生物起源の堆積岩中に穿孔性二枚貝類が穿った巣孔の内壁や,その穿孔穴を二次利用するマツカゼガイなどの死殻内面,そして先行して生活していた本新種の別個体の死殻内面などに固着して生活すると推定された。本新種は二枚貝などの穿孔生物によって提供される隠蔽的環境に特化して棲息しているものと考えられる。その発見は,サンゴ礁域で示されているように,穿孔活動によって提供される隠蔽的環境が,非生物起源の硬基質環境においても種の多様性創出に寄与することを示唆する一例と言えるかも知れない。
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© 2016 日本貝類学会
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