本論文はイシガイ科貝類で初めて発見されたグロキディウム幼生の幼生糸の逆転配置について報告するものである。2011年6月に滋賀県木之本町の農業用水路で成熟したグロキディウム幼生を有するヌマガイ2個体を採集し,母貝から放出された幼生の観察を行なった。ヌマガイの幼生は1対の亜三角形の殻が1辺で接合した対称的な形をしていた。軟体部を観察した結果,外部幼生糸の根元と内部幼生糸の配置が左右非対称であり,両者はほとんどの幼生で身体の右側に位置した。約50個体の幼生を観察した結果,身体の左側に外部幼生糸の根元と内部幼生糸を有する幼生が1個体のみ確認されたことから,この個体では少なくとも内臓が部分的に左右逆転していたと考えられる。