2019 年 77 巻 1-4 号 p. 51-53
ニシキウズ上科の科名義タクソンLiotiidae Gray, 1850(ヒメカタベ科)とそのタイプ属Liotia Gray, 1842は広く認められているが,一方でLiotina Fischer, 1885に基づいた名義タクソンであるLiotinidae Nomura, 1932はこれまで見過ごされてきた。
Liotina Fischer, 1885はヒメカタベ科の有効名であるが,多くの文献においてその著者はMunier-Chalmas(1877)とされていた。しかし,今回文献を精査した結果,Munier-Chalmasのいずれの著作にもLiotinaの属名は現れず,Fischer(1885)によって初めて(Liotiaの亜属として)正式に導入されたことが明らかになった。Fischer(1885)はこの属にLiotia(Liotina)gervillei DefranceとLiotia(Liotina)australis Kiener の2名義種を含めているが,タイプ種は指定していなかった。タイプ種はCossmann(1888)によって“L. Gervillei”が後指定された。この種名は当初Defrance(1818)によって“gervilii”とされ,その後様々に異なった綴りで用いられたが,フランスのナチュラリストCharles de Gervilleに因んだもので,命名規約に則り,ラテン語化された人名“Gervillianus”に基づき“gervillii”が正しい綴りとなる。従って,Liotinaのタイプ種はDelphinula gervillii Defrance, 1818とするべきである。
Liotinidae Nomura, 1932は関東地方の完新世隆起海浜堆積物の軟体動物リストの中に初めて現れたもので,記載やタイプ種の指定が伴っていないことのみならず,新名義タクサであることも示されていない。これまでほとんどの文献で見逃されていたが,近年東海大出版会の日本近海産貝類図鑑の第二版(Sasaki, 2017)の中で用いられている。しかし,いずれのケースも著者と年が伴っていないために,Liotiidaeの綴り間違いの可能性も否定できない(同図鑑の目次では“Liotididae”となっている)。いずれにしても,LiotinidaeはNomura & Zinbô(1934)のリストの中でも用いられていることから,命名規約の条13により適格と判断されるが,Liotiidae Gray, 1850の主観新参異名となる。