2024 年 82 巻 1-4 号 p. 1-14
オオシマムシオイDicharax oshimanus(Pilsbry & Hirase, 1904)は奄美大島をタイプ産地とするムシオイ亜科の一種である。フィラデルフィア自然科学アカデミーのレクトタイプ標本及びパラレクトタイプ標本を確認したところ,本種は,近年請島や加計呂麻島で採集され,アマミムシオイ(仮称)として報告されている標本と同一種であることがわかった。一方、文献上でオオシマムシオイとされている種の中にはオオシマムシオイの近似種も含まれていることが判明したため,新たに採集した標本をもとにオオシマムシオイを再記載した。なお,和名オオシマムシオイは平瀬與一郎によって命名されたもので(Kuroda, 1928),平瀬はAlycaeus oshimanusの原著者の一人であるため,タイプ標本を和名の基準標本と見なすことにする。
また,以前より黒住耐二氏によって西表島から未記載種として報告されていたイリオモテムシオイを新種記載した。
Dicharax oshimanus(Pilsbry & Hirase, 1904)オオシマムシオイ
殻は円錐形で黄白色~淡い赤褐色を呈する。胎殻は光沢があり,黄白色~鮮やかなオレンジ色を呈する。後生殻の成長肋(縦肋)は最初は等間隔で隆起が鈍いが,虫様管付近に近づくと間隔がわずかに広く,明瞭になる。虫様管付近の肋は密に現れる。頸部から殻口までの長さは短く,膨らみには個体差があるが比較的弱い。殻口はやや大きく,円い。殻口縁は二重になり,外側の口縁は拡張し,内側はわずかに前方に突出する。本種は黄白色~淡褐色を呈し,正面から見たときの体層部分の成長肋が斜めになるが,混同されていた近似種は殻がより赤味を帯び,正面から見たときの体層部分の成長肋が垂直になるため,両種は識別できる。
Dicharax kurozumitaijii n. sp. イリオモテムシオイ
殻高2.30 mm,殻幅4.48 mm(ホロタイプ)。殻は扁平な円盤形で,半透明の乳白色~黄白色を呈する。胎殻は光沢があり,黄白色~淡い赤褐色を呈する。後生殻の成長肋は最初は密に現れ不明瞭だが,虫様管部分に向かって間隔がわずかに広くなる。虫様管が位置する部分の肋は極めて細かく,表面上は滑らかに見える。頸部は平滑で,くびれは弱い。頸部から殻口までは比較的長く,多少膨らみを持ちながら殻口に向かって螺管が広がる。側面から見ると螺管はやや下向きに伸びる。殻口は円形で多少肥厚し,口縁は拡張し,弱く重複してやや前方に突出する。壁唇部は体層に密着する。蓋は直径約1.2 mmの低い円錐形を呈し,内側は光沢を持ち,中央部には僅かな突起様もしくは円環のふくらみが見られる一方,外側は多旋形(型)で角質の膜で覆われる。タイプ産地は西表島竹富町古見。