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日本の湖沼に於ける貝類の生産量
宮地 傳三郎
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1937 年 7 巻 2 号 p. 51-74

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抄録

本邦湖沼の貝類生産量が北ドイツ及びアルプス周縁部の湖沼に比較して著しく小さいこと及び貝殼帶の存在しないことを指摘して, その原因について考究した.1. 本邦湖沼は一般底棲動物の生産量が北ドイツ及びアルプス周縁部の湖沼に比して著しく劣つてをり, 貝類生産量の小さいことはこれに隨伴する一現象とも考へられる.又, 本邦には極度の貧榮養火山湖や貝類の出現しない湖が多く, それらが平均生産量を著しく小さいものとする.2. 本邦に於ても海跡湖沼の貝類生産量は相當大きい.北ドイツの多くの湖は氷河成因の海跡湖沼で, このことが貝類生産量に影響してをると考へられる.3. ヨーロツパ及び北アメリカの湖沼は本邦の湖沼に比較して貝の種類數に富む.從つて, 前者に於ては異る生態的環境がそこによりよく適應した種類によつて占められる可能性が多い.4. 高緯度地方の湖沼には廣汎深度性の貝類が多いが, それらは恐らく水温等の制約をうけて低緯度地方の湖沼には分布せず, そこでは貝類は沿岸帶及び亞沿岸帶に局限せられる傾向がある.ヨーロツパの湖沼には廣汎深度性の貝類が多く, それらが大きい貝類生産量と關係してをる.本邦でも千島・樺太・北海道(極めて深いカルデラ湖を除く)の湖沼がヨーロツパの湖に比して餘り遜色のない貝類生産量を示してをるのは同様に廣汎深度性の貝類が豐富に棲息してをるためである.5. 本邦湖水のCa貧榮養なること及び屡々酸性なることも貝類生産量を低下せしめる有力なる原因と考へられる.特に貝殼帶の存在しない理由は貝類生産量の低いためばかりでなく, Ca貧榮養が直接の要因と考へて差支へあるまい.

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© 1937 日本貝類学会
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