雑草研究
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コハコベとミドリハコベの個体群において発生時期の差異が生存率と個体サイズに及ぼす影響
三浦 励一小林 央往草薙 得一
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1995 年 40 巻 3 号 p. 179-186

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抄録

京都付近ではコハコベは畑地や果樹園の主要雑草であるが, これに近縁なミドリハコベは農耕地には侵入しない人里植物である。両種の代表的な生育地において実生の発生, 死亡および開花の過程を調査し, 以下の結果を得た。
1) 畑地および果樹園においてコハコベの実生は春期から秋期まで断続的に発生し, とくに耕転の後に集中して発生する傾向にあった (Fig. 1)。発生した個体は1~2ヵ月後に開花を開始した (Fig. 2)。
2) 沢沿い, 樹園地および路傍においてミドリハコベの実生はほぼ秋期に限って発生した (Fig. 1)。発生した個体は栄養成長を続けながら越冬し, 翌春開花結実後, 枯死した (Fig. 2)。
3) コハコベでは耕起後早く発生した同齢集団 (cohort) ほど開花までの生存率が高く (Fig. 3), 個体サイズも大きい傾向があった (Fig. 4)。耕起後遅く発生した同齢集団のおもな死亡要因は次回の耕起や除草であったが, 競争によると推定される場合もあった。
4) ミドリハコベでは秋期早く発生した同齢集団ほど翌春における生存率は低いが (Fig. 3), 個体サイズは逆に大きい傾向にあった (Fig. 4)。
以上の観察結果から, 両種は生育地の環境の違いに対応した対照的な発芽戦略を示していると解釈される。コハコベでは耕耘などの人為的撹乱が直接の死亡要因となり, またその直後は実生の生育に好適な環境がつくられるために耕耘直後の発生が有利になっていると考えられる。またミドリハコベでは早すぎる発芽は生存率を, 遅すぎる発芽は個体サイズを低下させるため秋期の最適な発芽時期が決まっている可能性がある。

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