2018 年 8 巻 p. 7-16
エゾシカ(Cervus nippon yesoensis)の越冬地としての質を評価し,優先的に対策を実施すべき湿原を特定するため,別寒辺牛湿原において航空機調査を実施し,エゾシカの密度指標及び生息地選択を釧路湿原と比較した.別寒辺牛湿原北部の密度指標は,釧路湿原北部に比べて顕著に低かった.この要因として,別寒辺牛湿原北部は,釧路湿原北部に比べて選択性の高い落葉広葉樹林の面積が少なかったこと,積雪深がより深かったこと,南向き斜面の割合が低かったことが考えられる.釧路湿原北部の越冬地としての質は別寒辺牛湿原よりも高いことが示唆されたため,個体数管理やシカ排除柵の設置などの対策は,まずは釧路湿原で優先的に実施する必要がある.一方,別寒辺牛湿原では貴重な高層湿原周辺でエゾシカが局所的に高密度で越冬していることが明らかとなったため,今後これらの越冬個体が高層湿原に及ぼす影響を評価すべきだと考える.