2025 年 51 巻 p. 33-57
東京都23区の市民28名を対象とし,M8以上の巨大地震発生の科学的不確実性と長期的地震対策に関する3回の市民会議を開催した。3回の市民会議の前後に実施した6回のアンケート調査を基に,地震発生の不確実性や長期的地震対策に関する市民の認識変化を分析した。アンケートへの回答を得点化し,6回のアンケートの得点を順次積算した「積算プロット図」を作成し,目的変数としてのM8クラスの長期的地震対策の必要性を設定し,説明変数として設定した科学的不確実性に関する認識などとの関係を分析した。
分析の結果,市民が地震発生確率の科学的不確実性を認識することは,地震学者や防災専門家への社会的信頼を損なうものではないことが示された。従来の研究では,地震発生確率の科学的不確実性を市民が認識することは地震学者や防災専門家への信頼を低下させるとの研究もあった。しかし,本研究の結果は,科学的不確実性を市民が認識することは,地震学や防災科学への信頼の低下には繋がらないことを,専門家と市民による「対話の場」という文脈型リスク・ミュニケーションによって示した。このことは,Nakayachi et al. (2018)と同様の研究結果を,中谷内らとは異なる方法で実証的に示したといえる。
また,参加市民ごとの積算プロット図分析の結果,市民は一様な集団ではなく,長期的地震対策を積極的に支持する市民グループ,長期的地震対策を中庸に支持する市民グループ,長期的地震対策を消極的に支持する市民グループという3つに分かれることが示された。また,同じ市民グループにおいても,複数の考え方のパターンに分類が可能であることも示された。特に,政策を消極的に支持する市民グループは,アンケートの初回あるいは後半だけで政策を消極的に支持したり,アンケートを通して積極的支持と消極的支持を繰り返す市民が存在することが特徴である。
また,地震対策を積極的に支持する市民グループと中庸あるいは消極的に支持する市民グループは,地震発生の予測技術の評価項目や国や東京都への信頼に関わる項目では,政策選好によるグループの違いに依らず,同じ評価傾向を示すことが確認された。長期的地震対策に関する市民の類型化が可能であることや市民に共通する項目の存在は,地層処分に関わる市民会議で松岡他(2021)が示した研究結果と共通するといえる。
今後は,市民の科学リテラシーの向上のための対話型(文脈モデル)リスク・コミュニュケーションの具体化や双方向型の災害情報制度のデザインなどの社会イノベーションが望まれる。