2024 年 31 巻 p. 106-123
日本の社会学的な男性学・男性研究において、自衛隊を対象とした軍事的男性性の議論は十分展開されてこず、自衛隊のジェンダー研究においても特に戦闘の価値づけという観点から男性性の複数性における考察は深められてこなかった。本稿では自衛隊の軍事的男性性を論じようとしたときに、さらに二つの課題があると考える。第一に、軍事的男性性の枠組みが、戦闘に男性たちを駆り立てるべく、男らしさと戦いを結びつけるさまを解釈しようとしてきたものであったのに対し、自衛隊は憲法九条のもとで戦闘参加を厳しく制約されているという齟齬をどのように解釈するかということ。第二に、外部社会と自衛隊の「断絶」ゆえに、外部社会との関係をふまえた自衛隊の軍事的男性性の構築をとらえることが不可能に見えること。フェミニスト国際関係論やミリタリー・カルチャー研究、自衛隊研究を参照し、これらの課題を解決することを通じて、自衛隊の軍事的男性性が戦闘を称揚するものと戦闘回避をするものがせめぎ合っており、そこには外部社会の影響もあることを示す。さらに、安全保障政策や戦争記憶のありかた、日本の経済状況の変化などをふまえながら、ヘゲモニーの変動を議論する必要性を述べる。