YAKUGAKU ZASSHI
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誌上シンポジウム
「医療ビッグデータ×AI×臨床」医療の発展に貢献するデータサイエンス
武隈 洋 百 賢二
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2023 年 143 巻 6 号 p. 483-484

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2021年にデジタル庁が設立され,マイナンバーの導入など社会における情報(ビッグデータ)の利活用への期待が高まっている.また,2021年6月に閣議決定された成長戦略実行計画の中にも重要分野における取り組みの一つとしてデータヘルス(健康・医療・介護でのデータの利活用)の推進が掲げられている.医療現場においては,診療に関する様々な情報が日々蓄積されている一方で,これらを臨床現場や社会で利活用された実例や取り組みの紹介は十分とはいい難い.この背景には研究者又は臨床家が医療ビッグデータを理解する場やどのように社会還元すべきか,臨床応用が見込めるような実例などに関し,議論する場が少ないという課題がある.一般に医療ビッグデータの解析には,単純な集計や統計解析だけでなく,人工知能(artificial intelligence: AI)を用いた解析技術も今後必須となることが予想される.

そこで本誌上シンポジウムでは,「医療ビッグデータ×AI×臨床」をキーワードに,異なる背景を有する5名のデータサイエンティストからビッグデータの臨床応用に関する具体的な取り組みやその留意点について執筆頂いた.

今井俊吾氏には,「診療情報データベースと機械学習の融合による副作用発現要因分析への新たなアプローチ」について,機械学習法の一つである「Decision Treeモデル」を用いた副作用の要因分析に関して,単施設でのモデル構築から医療ビックデータを用いてより一般化可能な結果を導き出した成果とその限界点について詳述して頂いた.

酒井隆全氏からは,医療情報を用いたデータベース研究の成果が多数報告されるようになった一方で,社会問題化している不確かな情報が流布されてしまうインフォデミックへの警鐘として,「自発報告データベースの解析結果に対する適切な解釈」や「医療情報データベースの信頼性」の観点からデータベース研究に携わる医療専門家のリテラシーの重要性を述べて頂くとともに,医療における人工知能の活用についても具体的な研究成果を基に解説頂いた.

横山 聡氏らには,「レセプトデータベースを中心としたビッグデータの利活用」について,仮説を生成する研究手法としてsequence symmetry analysisやdisproportionality analysis,その仮説の検証手法としてコホート研究やケース・コントロール研究などを中心に解説頂き,更に上記の手法に加えトランスクリプトームデータベースを活用したドラッグ・リポジショニング研究の成果について執筆頂いた.

桐生嘉浩氏からは,「臨床薬学領域におけるAIアナリティクスを活用した医療ビッグデータ解析システムの開発」のテーマで,潜在的副作用リスクをあらかじめ視野に入れた副作用評価,患者個々の特性を考慮した個別の副作用管理及び副作用評価者への画一的な判断材料を揃えることを目的とした探索的解析を実践するためのツールとして独自に開発されたシステムに関する概要と開発工程を紹介頂いた.このシステム開発では,現場サイド(医療者側)の視点にたった開発を進めることが可能な設計手法である「ドメイン駆動設計」が用いられている.

最後に本稿の共著者(百 賢二ら)からは,「医療ビッグデータを用いた医薬品開発シーズの探索」への取り組みについて,小児領域に着目した医薬品開発ニーズを探索するために,医療ビッグデータを用いた錠剤の粉末化・脱カプセル調剤の実態調査を行い,小児用製剤が販売されていないために成人用経口製剤を用いた投与が行われている状況を報告している.

これら5名の先生方の報告を通して,医療ビッグデータの利活用方法の理解と今後の研究活動や臨床業務に役立てる機会にして頂ければ幸いである.

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日本薬学会第142年会シンポジウムS31序文

 
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