YAKUGAKU ZASSHI
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簡便なチューブ内混合方法を用いた2剤の半固形製剤の均一性研究
堀沢 栄次郎浅井 藍人近藤 啓太丹羽 敏幸
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2023 年 143 巻 6 号 p. 533-539

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Summary

To accelerate therapeutic effects, the mixtures of two or more topical pharmaceutical products having different medicinal purposes are often applied in the medical field. In this study, we aimed to develop a simple mixing method/procedure to achieve excellent homogeneity in the mixture of two topical products, a steroidal ointment and a skin moisturizer. To assess an in-tube mixing method as a simple mixing procedure, we injected both topical products into an empty resin tube, a flexible hollow tube with an open end that can be closed on one side, and a closed end on the other, removed as less air as possible inside the tube, and then thermocompressed (sealed) the open end to close it. The two topical products were then mixed uniformly by repeated finger pressure along the longitudinal axis of the tube. The homogeneity of the two topical products in the tube was evaluated by measuring the content of methyl paraoxybenzoate (MP), an additive loaded in the skin moisturizer. In addition, the mixability was qualitatively evaluated from the distribution of white petrolatum, another additive loaded in the steroid ointment, using Raman spectroscopy. As a result, the measured value of MP relative to the label claim was in the range of 100±12%, and the coefficients of variation value was also less than 12%. These results indicate that the in-tube mixing method using two topical products is approximately hologenetic preparations that do not cause therapeutic problems.

緒言

調剤薬局における今日の調剤業務のあり方については,厚生労働省や医薬品医療機器制度部会による通知類1,2に,基本的な考え方が整理されている.また,薬剤師法3第19条(調剤)では,医薬品の直接計量や軟膏などの混合操作4が薬剤師の職能によって適切に行われることを意図している.5今日の皮膚科医療では,局所治療を目的とした半固形製剤(皮膚科医療で繁用される外用剤6)の異なる2剤がしばしば混合される.例として,アトピー性皮膚炎症の治療において,寛解導入と維持効果を促進する目的でステロイド外用剤と保湿剤が日常的に混合されている.7,8また,これ以外にも,2剤以上の外用剤を用時調製する混合調剤が行われている等の報告911がある.従来から外用剤の混合方法として,a)乳鉢を用いる混合,b)軟膏ベラと軟膏板とを用いる混合,及び,c)攪拌機能を有する混合機を用いる混合,の3つが利用されてきた.ここで,a)及びb)の混合方法は,今日では調剤室で最も普及している方法であるが,これらの方法では,混合製剤の調製ごとに器具の洗浄と消毒が必要となるとともに,調剤中の薬剤汚染に注意を払わなければならない.また,混合手技が薬剤師の熟練度に依存すること,かつ,調剤時間が長く,各製剤のロスが生じる等の課題があった.10,11これに対し,c)の混合機を用いる方法では,それらの課題は改善されたが,ハード・ソフト面で別の技術的な検討課題が生じてくる.一例として,調剤机上に本混合機を設置するためのスペースが必要であり,不使用時には邪魔になることが,また,製剤を移し替える混合容器(軟膏ツボ)は,チューブ容器に比べて気密性に劣るため,保管中に品質の低下が生じ得ることが懸念される.12,13以上のように,外用剤の混合調剤は,いずれの混合方法を用いる場合でも,通常業務における負担を軽減するには至っていない.

このような現状に鑑み,われわれは調剤負担を軽減すべく,新たな簡易混合法の確立を検討した.その結果,樹脂製の空チューブ容器を用い,この中に2剤以上の外用剤を注入した後,チューブ容器の外部から反復加圧を行って混合する方法により,治療上の課題とならない程度の均一な外用剤を混合できる可能性を見い出した.本論文では,従来の手法と比べ,簡便で均一な外用剤混合を行うチューブ内混合法14に関する科学的検証を行ったので,以下に報告する.

実験の部

1. 実験材料(使用製品と空チューブ容器)及び試薬類

混合製剤の調製に使用した製品は,市販のステロイド外用剤であるアンテベート軟膏0.05%(betamethasone butyrate propionate: AN,軟膏1 g中に0.5 mg,鳥居薬品,東京)と,保湿剤としてヒルドイドソフト軟膏0.3%(heparinoid: HS,軟膏1 g中に3.0 mg,マルホ,大阪)を用いた(Table 1).ステロイド外用剤による薬物療法に加え,スキンケア目的で保湿外用剤を併用する方法は,アトピー性皮膚炎診療ガイドライン8にも推奨されている.混合製剤の資材(容器)には,ポリエチレン製[高密度ポリエチレン(high density polyethylene: HDPE)/低密度ポリエチレン(low density polyethylene: LDPE)]の空チューブを用いた.なお,ここで用いたチューブとは,Fig. 1に示したように,一方は閉鎖可能な開口端,そして他方は閉口端(キャップ側)を有する柔軟性のある中空管であり,実際の製品に使われたものを再利用した.また,評価試験に用いた試薬及び溶剤類は,すべて試薬グレードを用いた.

Table 1. Specifications of Topical Steroidal Ointment; Antebate® Ointment and Skin Moisturizer; Hirudoid® Soft Ointment [Water in Oil (W/O) Type] Used in This Experiment
Product nameAbbreviationTopical productTherapeutic categoryLot No.
Antebate®ANBetamethasone butyrate propionate ointmentCorticosteroids/anti-inflammatoryAJF52N, AEJ58N, AEJ69N
Hirudoid® SoftHSHeparinoid ointmentBlood circulation promotion/skin moisturizer8A1NE, AE0YU, CE0ON
Fig. 1. Schematic Diagram of Flexible Hollow-tube; Empty Resin-tube, Heat-seal and Mixing Procedure

2. 混合製剤の調製

AN軟膏及びHS軟膏を,混合比率(質量比)[5 : 1],[1 : 1]及び[1 : 5]で,開口端より空チューブ内へそれぞれ全量が20 gとなるように計量して注入した.これを指で掴み,閉口端(キャップ側)を下側にして,10回タッピングして内部の空気を除去した.この際,注入した2種類の外用剤ができるだけ閉口端に寄るようにした.この後,内容物が漏れないように開口端をヒートシール機で密封(封緘)した.さらに,封緘したチューブの外側より指で挟み,長方向軸に沿って反復加圧を10回行い,チューブ内の2剤を混合した(Fig. 1:図中の矢印).この際の手順は,一方向に向けて,チューブ内部の2剤を強く指で擦りながら押し出した後,今度は,逆方向に向けて同様に強く押し出した.すなわち,長方向軸を反復移動しながら10回,交互に繰り返し往復させた.この加圧と加圧解除を繰り返すことにより,内部の2剤の外用剤の均一化を図り,外用剤混合チューブ(混合製剤サンプル)を調製した.各混合比率毎のサンプル調製は3回繰り返した.

3. 混合均一性の評価方法

混合製剤サンプルの均一性の評価に関しては,これまでの文献報告等11,15を参考として,製品中に含まれる成分に着目した混合均一性と成分均一性について評価した.

3-1. 配合成分の定量による混合均一性[パラオキシ安息香酸メチル(methyl parahydroxybenzoate: MP)の定量]

混合均一性の評価として,HS軟膏に含有される保存剤であるMP16を対象として試験した.標準品としてmethyl parahydroxybenzoate(日本薬局方準拠品,C8H8O3; molecular weight(MW)=152.15,富士フィルム和光純薬,東京)を用いた.調製後の混合製剤のチューブ上部,中部及び下部よりそれぞれ中身を小ビーカーに押出した後,各ビーカーから一定量を秤取し,以下の定量試験に供した.秤取量は,HS: 0.1 gに相当する量を,両軟膏の混合比率に応じて設定した.各サンプルにテトラヒドラフラン1 mLとアセトニトリル3 mLを加え,超音波処理と遠心操作を行った.この後,メンブランフィルター(0.45 µm)で濾過した液を試料溶液とした.また,MP(標準品)の濃度が,25 µg/mLとなるように調製した液を標準溶液とした.日本薬局方17液体クロマトグラフィーに従い,高速液体クロマトグラフ(HPLC, LC-20,島津製作所,京都)を用いて,試料溶液及び標準溶液の各15 µL中のMP濃度を測定した.この際,逆相系カラムYMC Pack Pro C18(AS12S05-2546WT,ワイエムシィ,京都),カラム温度:40°Cの条件下で分離を行い,MPの保持時間が約5分となるよう移動相(水 : アセトニトリル : テトラヒドロフラン=2 : 1 : 0.3)の流速を調整した.混合比率に応じて,HS単体中のMP濃度測定値の5/6, 1/2, 1/6を表示量(100%)とし,各混合製剤サンプルの3ヵ所(チューブ上部,中部,下部)のMP濃度測定値の表示量に対する百分率(%)を算出した.混合均一性の指標として,この3ヵ所の値の母平均と標準偏差(SD)から式(1)を用いて,チューブ内濃度の変動係数[coefficient of variation(CV),%]を算出し評価した.なお,測定を行う前に,HPLC定量の特異性,直線性(r2=0.9997),真度(101.0±2.1%),併行精度(SD:1%以下)及び日差変動(SD:1%以下)を確認した.

  
(1)

3-2. ラマン分光法による成分均一性(ワセリンの検出)

混合製剤サンプルの添加剤成分の均一性(分布)について,レーザーラマン分光装置(PR-1W,日本分光,東京)を用いて試験した.少量のサンプルをステンレス試料台に取り,励起波長785 nm,露光時間1秒,積算回数16回,レーザー強度50 mWの条件下で波数(ラマンシフト)200 cm−1から3000 cm−1までを測定した.得られたスペクトルから,ライブラリー(KnowItAll,ワイディシステム,富山)を用いて,配合成分であるワセリンの分布均一性18を評価した.

4. 物理学的特性の評価方法(滑動曲線)

混合製剤サンプルの物理的特性については,浅井ら19が開発したクリープメーターを用いた滑動試験を行い,滑動曲線1922にて評価した.クリープメーターを用いた応用試験は固形剤の強度試験のほか,ゼリーやプリンなどのテクスチャーの評価2022や,外用剤や化粧品を皮膚に塗布するときの使用感の評価23,24にも利用されている.そこで,チューブ内混合法を用いたときに,物性や使用感の変化が生じるかを検討した.調製後のチューブより混合した製剤サンプルの適量をビーカーに押出し,これを2軸式クリープメーター[クリープメーターII;CREEPMETER RE2-33005C(XZ),ポリアセタール樹脂製治具:XZ-5,山電,東京]を用い,垂直方向の荷重(0.1 N)の負荷下での水平方向の摩擦荷重を測定した.これらの荷重測定は,a)適量のサンプルを下部のアクリル板台座の凹部隙間(W13×D75×H3 mm)に展延しないように均一に装填して固定した後,これに治具を上方向から直接押しつけて接触させる条件と,b)下部のアクリル板台座に人工皮膚(サプラーレ,山電/出光テクノファイン,東京)を両面テープで貼付固定し,適量のサンプルをあらかじめ塗布したポリアセタール樹脂製治具を上方向から,この人工皮膚に直接接触させる条件の両者について実施した.両試験結果から得た滑動曲線より,a)はサンプルの物理学的特性(摩擦特性,レオロジー)の指標に,一方,b)はサンプルの使用感(感触)の指標とした.

結果及び考察

1. チューブ内混合法による製剤の混合均一性

今回の実験では,標準物質の入手方法や定量法における検出感度等の問題より,両軟膏の主成分であるbetamethasone butyrate propionateやheparinoidではなく,HSに含有される添加剤であるMPを対象として,混合均一性を評価した.Table 2に,HS中のMP含量の測定値から算出した表示量(100%)に対する混合製剤サンプル中のMP含量の百分率(%),並びにそれらのSDとCVを示した(n=3).また,比較目的で実施したHSのみをチューブに充填した場合の上部,中部,及び下部の測定結果も併せて表記した(n=1).Table 2より,HS単独での含量ばらつきはCVが0.6%となり,チューブ内の3ヵ所のMP含量(%)は極めて均一であった.一方,ANとHSの混合製剤サンプルにおいて[AN : HS=1 : 1]のサンプルでは,CVが5.6–8.7%とHS単独よりも大きくなった.また,本表に示したように,ANとHSの混合比率が変わっても,CVが2.6–11.7%の範囲であったが,HSの混合比率が低くなるに従ってCV値は大きくなり,均一性低下の傾向がみられた.本実験を行う前に,2剤を空チューブに注入した後,混合操作を行わずに封緘したサンプルではCV≧50%となった.未混合の場合,理論的にはCVが100%になると想定されるが,実際にはチューブ充填時の脱気操作により混合が進行したことが推測された.

Table 2. Percent Ratio against Label Claim of Methyl Parahydroxybenzoate and Uniformity in Mixed Preparations of Antebate® Ointment and Hirudoid® Soft Ointment
Mixed preparations type [Mixing ratio][AN : HS=5 : 1], n=3[AN : HS=1 : 1], n=3[AN : HS=1 : 5], n=3HS, n=1
1st2nd3rd1st2nd3rd1st2nd3rd1st
Percent ratio against label claim
1) Upper part (of the tube)93.988.290.496.498.5107.493.496.696.2104.0
2) Middle part105.591.9102.997.4110.597.8105.7100.4100.2103.9
3) Lower part103.9109.4110.8106.693.790.493.8107.8101.1102.9
Average content (%, Ave)101.196.5101.3100.1100.998.597.6101.699.2103.3
Standard deviation (SD)6.311.310.35.68.68.57.05.72.60.6
Coefficient of variation (CV)6.211.710.25.68.58.77.15.62.60.6

医薬品外用剤は塗布量や塗布回数の用法が厳密に定められていないため,どの程度の混合均一性が臨床効果から考えて妥当であるかは明確ではない.高藤ら11は,ステロイド軟膏の混合製剤を自転・公転式ミキサーを用いて調製するときの混合時間と均一性を検討し,時間を延長することにより均一性が向上することを報告している.また,均一性の指標として,局所皮膚適用製剤の後発医薬品のための生物学的同等性試験25より,作用の強い薬剤間の同等性の許容域を鑑み,CVが15.2%以下を混合良好の目安に置いている.本視点からも,今回のチューブ内混合法による結果は,混合前の単剤の均一性には明らかに及ばないが,治療上の問題とならない程度の均一混合の可能性が示された.

2. 混合製剤の成分均一性(ラマンスペクトル)

各混合製剤サンプルのレーザーラマン分光装置によるラマンスペクトルをFig. 2に示した.われわれは先に,ワセリンのラマン分光分析を検討し,波数が2800 cm−1付近にみられる特徴的なピークが直鎖飽和炭化水素の標準品のピークと合致すること,また,分子量の異なるアルカンの混合物であるワセリンの混合(分布)状態が推測できることを報告18したが,今回,各サンプルのスペクトルにおいても2800 cm−1付近のピークが検出された.なお,それ以外のピークに関してライブラリーを用いて成分を検索したが,明瞭な判定ができなかった.これまでに公開されているHSの添加剤情報16,26から,本製品中にはワセリンが含有されているが,その含有比率は低いことが推測された.これより,今回の混合製剤サンプル中のワセリン分布は,AN由来のワセリンの影響が大きいことが考えられた.そこで,各サンプルのピーク(2800 cm−1付近)について面積法27を用い,2剤の混合比率との関係を検討した.Fig. 3には,AN/HS混合比率[x軸:(AN : HS=1 : 1)は0.50に対応]に対する,2750 cm−1から3000 cm−1のラマンシフトのピーク面積(y軸)をプロットした相関図を示した.Figure 3より,ANの質量比が大きくなるに従って,サンプルのピーク面積は大きくなった.ラマン分光法は,波長の弱い散乱光を検出してスペクトルを得る測定法で,分極率の変化が捉え難いことが示されている.28今回の結果から,混合製剤サンプルにおけるワセリン及びその他の添加剤の均一性予測として,各サンプル中の添加剤分布が配合比と密接に関係することが示唆された.

Fig. 2. Raman Spectra of Mixed Preparations of Antebate® Ointment and Hirudoid® Soft Ointment

(Color figure can be accessed in the online version).

Fig. 3. Laser Raman Analyses of Mixed Preparations of Antebate® Ointment and Hirudoid® Soft Ointment: Relationship between Mixing Ratio of Two Topical Products and Peak Area around 2750 to 3000 cm−1 (n=1)

3. 混合製剤の物理学的特性(滑動曲線)

各混合製剤サンプルのクリープメーターで測定した滑動曲線について,a)治具を上方向から軟膏に押しつける条件で得られた結果をFig. 4に,また,b)軟膏を人工皮膚に接触させる条件で得られた結果をFig. 5に示した.本図には,3つの混合製剤サンプルのほかに,各単剤(AN単独,及びHS単独),及び,b)については,サプラーレのブランク(未塗布)の滑動曲線も併せて示した.

Fig. 4. Sliding Profiles of Mixed Preparations of Antebate® Ointment and Hirudoid® Soft Ointment

〈Experimental a〉: Measurement of Physical Properties by Creep Meter (n=1). ●: Antebate® (AN), ◇: [AN : HS=5 : 1], 〇: [AN : HS=1 : 1], □: [AN : HS=1 : 5], ▲: Hirudoid® Soft (HS)

Fig. 5. Sliding Profiles of Mixed Preparations of Antebate® Ointment and Hirudoid® Soft Ointment

〈Experimental b〉: Measurement of Sliding-resistance using Artificial-skin; Suprale (n=1). —: None (Suprale), ●: Antebate® (AN), ◇: [AN : HS=5 : 1], 〇: [AN : HS=1 : 1], □: [AN : HS=1 : 5], ▲: Hirudoid® Soft (HS)

始めにFig. 4について,AN単剤の滑動曲線では,試験開始の初期に摩擦荷重が高くなり,ついで低下した後,ほぼ一定になった.すなわち,摺動距離が1 mm以下では摩擦荷重が0.1 Nまで上昇した後に0.05 Nまで低下し,1 mm以上ではほぼ一定(約0.06 N)で曲線が進行した.一方,HS単剤の滑動曲線では,開始初期に,高い摩擦荷重はみられなかったが,摺動距離が長くなるに従って徐々に高まり,1 mm以上ではほぼ一定(約0.03 N)で進行し,このときの摩擦荷重はAN単剤に比べて低かった.一般に,ワセリンを主体とする油脂性軟膏は,水を含有するwater in oil(W/O)の油性クリームに比べると粘度が高く,チキソトロピー性も高い.今回の滑動曲線においても,AN(油脂性軟膏)はHS(W/O型の油性クリーム)に比べて,摩擦荷重を掛けた動粘性においても両剤形の物理的な特徴が示されたものと考えられる.また,3つの混合製剤サンプルは,いずれもAN単剤,及びHS単剤の各滑動曲線の中間に位置しており,ANの比率が高い混合製剤(AN : HS=5 : 1)では,AN単剤に観察された滑動曲線に近い曲線パターンが,反対に,ANの比率が低い混合製剤(AN : HS=1 : 5)ではHS単剤に近似した.以上の結果より,本混合方法で調製したANとHSの混合製剤は,混合前の各単剤に比べて大きな物性変化が起きていないことが推察された.

次に,人工皮膚を用いた結果(Fig. 5)について,サンプルを治具に塗布しないブランクの滑動曲線では,摺動距離が0.1 mm付近で摩擦荷重が高くなり,ついで低下した後,0.2 mm以上ではほぼ一定(約0.1 N)で曲線が進行した.また,AN単剤の滑動曲線では,ブランクと同様の曲線パターンが認められたが,摩擦荷重が最も高くなるときの摺動距離がわずかに長く(0.2 mm付近),平行状態における摩擦荷重も低かった.これより,治具は人工皮膚から高い摩擦(静摩擦係数)を受けることが,また,人工皮膚に油脂性軟膏を塗布するとその摩擦が緩和されることが推測された.一方,HS単剤の滑動曲線では,摺動距離が0.2 mm以内の摩擦荷重はわずかな上昇に留まり,その後は一定の状態で進むが全体的に低かった.これより,W/O型の油性クリームを人工皮膚に塗布すると,皮膚との摩擦抵抗がより軽減されることが推察された.また,3つの混合製剤サンプルの滑動曲線では,いずれも両単剤の曲線から大きく外れなかった.以上の結果より,ANとHSの混合製剤は,各単剤の示す物理学的特性の範囲内の物性を有し,皮膚に適用塗布するときの摩擦抵抗が緩和され,なめらかさやしっとり感29,30などの官能特性を有する可能性が示された.

結論

2剤以上の医薬品外用剤を短時間で簡便に混合する方法を研究した結果,樹脂製の空チューブを利用した混合法によって,治療上問題にならない程度の均一な外用剤が調剤できる可能性が示唆された.

利益相反

堀沢栄次郎は現在,株式会社浅井薬局に所属している契約社員である.堀沢を除く3名の著者に関しては,開示すべき利益相反はない.

REFERENCES
 
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