2025 年 145 巻 3 号 p. 189-194
Human liver organoids are expected to be a hepatocyte source for preclinical in vitro studies of drug metabolism and disposition. Although these organoids show long-term proliferation, their hepatic functions remain low. Therefore, it is necessary to enhance the hepatic functions of primary human hepatocyte (PHH)-derived organoids. Here, we propose a novel method for two dimensional (2D)-cultured hepatic differentiation from PHH-derived organoids. PHH-derived organoids were established from cryopreserved PHHs. When cultured under a 2D condition, the single cells from PHH-derived organoids were seeded on collagen type I-coated plates. Then, optimal conditions for hepatic differentiation were screened using several compounds, cytokines and growth factors. Based on the results of the screening, we determined the 2D-cultured hepatic differentiation method from PHH-derived organoids. Hepatic gene expressions in PHH-derived organoids-derived hepatocytes (Org-HEPs) were greatly increased, compared to those in PHH-derived organoids. An RNA-seq analysis showed that gene expressions related to pharmacokinetics were upregulated in Org-HEPs compared to PHH-derived organoids. The metabolic activities of CYP1A2, CYP2C8, CYP2E1 and CYP3A4 were at levels comparable to those in PHHs. We also treated Org-HEPs and PHHs with hepatotoxic drugs, such as acetaminophen, troglitazone, amiodarone and clozapine. The cell viability of Org-HEPs was almost the same as that of PHHs. These results suggested that PHH-derived organoids could be differentiated into highly functional hepatocytes in 2D culture, and Org-HEPs could be used for hepatotoxicity tests. Thus, Org-HEPs will be useful for pharmaceutical research.
一般に1つの新しい医薬品をつくるために,開発期間は約10年,研究開発費は数百億円を上回るとされている.加えて,これらの開発に要する費用や期間は膨大化しつつあるため,医薬品開発過程の効率化や低コスト化が試みられてきた.特に,時間と費用を最も要する臨床試験段階で開発中止となった場合の損失は大きい.したがって,臨床試験の前に候補薬の有効性や安全性を精度よく評価可能な非臨床試験系の確立は,医薬品開発の効率化と低コスト化に大きく貢献すると考えられている.
多くの薬物は肝臓において代謝されるため,ヒト肝細胞を用いた薬物動態評価や安全性評価などの非臨床試験は医薬品開発に必要不可欠な試験である.1,2)ヒト初代培養肝細胞(primary human hepatocytes: PHHs)は,薬物動態評価や安全性評価においてヒト肝臓モデルとして使用される主要な細胞源である.3–6)しかし,PHHsには少なくとも2つの問題点がある.1つ目に十分な肝機能を持ったまま長期間培養できないこと,2つ目にin vitroでの増殖能がないため,供給量に限界があることである.したがって,新薬開発過程の効率化と低コスト化を実現させるために,PHHsの抱える課題を解決し,均質かつヒトの生体に近い性質を有した肝細胞を供給できる基盤技術が求められてきた.本総説では,これまでの肝細胞培養技術の開発について最新の研究成果と筆者らの取り組みを紹介したい.
従来の二次元培養で維持されたPHHsは,脱分化が進み急速に肝機能を失うことが知られている.7,8)そこで,長期培養後もPHHsの肝機能を維持するために,様々な技術が開発されてきた.例えば,スフェロイド培養や細胞外マトリックス(extra cellular matrix: ECM)の重層によるサンドイッチ培養などの培養法は,生体内の生理環境を模倣した複雑な培養系であり,PHHsの肝機能維持に有効であることが証明されてきた.9–14)例えば,Bellらは,PHHsを三次元的にスフェロイド培養することにより,少なくとも5週間は肝機能が維持されたことを報告した.10) Kimotoらは,ECMを用いてPHHsをサンドイッチ培養することにより,胆汁排泄機能を維持した培養が可能であることを示した.13)そのほかにも,肝星細胞などの非実質細胞との共培養15–17)や,培養中の酸素供給量の調整,18)培地灌流を導入した培養システム19,20)など,培養環境の最適化に関するアプローチが様々に提案されてきた.実際に,これらの方法はPHHsの機能維持に有効でありPHHsを用いた試験系の拡充に貢献したものの,培養規模の小ささや,培養操作の煩雑さ,被験薬物とECMとの相互作用の懸念,ECMのバッチ間差などの欠点もあり,医薬品開発過程への実装には至っていない.
PHHsの肝機能を維持する別の戦略として,従来の単純な二次元培養系で培地に化合物やサイトカインを添加する方法も開発されてきた.Xiangらは,5つの化合物(5 compounds: 5C)の作用により,PHHsがin vitroで長期間肝機能を維持できることを報告した.21) 5Cを作用したPHHsは,培養開始から27日目においても培養開始直後のPHHsと同様の遺伝子発現プロファイルと肝機能を示した.また,Katsudaらは,4種類の低分子シグナル阻害剤のカクテル(YPAC)が,アルブミンや尿素の産生,グリコーゲンの貯蔵,薬物代謝酵素の発現など,PHHsの様々な肝機能の維持に有用であることを報告した.22)特に,YPACを作用すると,PHHsは40日の培養後でもCYP1A2, CYP2B6, CYP3A4の活性を保持できることが示された.これらの低分子化合物を用いた研究成果によって,上述のような複雑な培養系を導入しなくとも,従来の二次元培養でPHHsの肝機能を維持可能であることが明らかとなった.しかし,これらの戦略ではPHHsの機能維持は可能になったものの細胞増殖は認められず,PHHsのもう一つの課題である供給量の制限には対処できない.
PHHsの供給量制限を克服すべく,in vitroで増殖し,その後に肝細胞様の細胞へと分化させることが可能な肝前駆細胞の培養技術が開発されてきた.肝臓は極めて高い再生能力を有した臓器である.その再生機構をin vitroで再現し,増殖性を有した肝前駆細胞を培養することができれば,PHHsの供給量制限を克服可能である.実際に,ヒトの肝細胞を化合物や増殖因子のカクテルで処理することにより,肝前駆細胞に脱分化させ,長期にわたって増殖させることができることを示した研究成果が報告された.23–25)In vitroで化学的に誘導されたこれらの肝前駆細胞は,機能を有した肝細胞に分化する能力があることも示された.しかし,分化後の肝細胞様の細胞は肝前駆細胞よりも肝細胞マーカーを高発現している一方で,PHHsよりは薬物代謝酵素活性などの機能が低かった.また,成人肝細胞から肝前駆細胞を誘導するのは難しく,高い効率で肝前駆細胞を作成するためには胎児や幼児の若いドナーに限定されることもわかってきた.
さらに,近年では,オルガノイド培養技術によりPHHsの供給量制限の克服が試みられている.オルガノイドは,ロイシンリッチリピート含有Gタンパク質共役型受容体5(luecine-rich orphan G-protein-coupled receptor 5: LGR5)陽性の体性幹細胞から作製された三次元培養体である.ヒト肝臓オルガノイドは,遺伝学的に安定なまま6ヵ月以上増殖させることができるため,肝細胞供給源として新しい可能性を秘めている細胞である.26–29)肝組織から樹立されたヒト肝臓オルガノイドは長期間の増殖能を示し拡大培養が可能であり,in vitroで機能的な肝細胞に分化できることが明らかにされた.しかし,このヒト肝臓オルガノイドを肝細胞様の細胞へ分化させたとしても,その肝機能はヒト肝組織と比較して十分に高いとは言えなかった.26,30)この課題を解決するため,2018年にHuらは,成熟肝細胞が肝機能を持ったまま増殖できる新たなヒト肝臓オルガノイドの培養系を発表した.27)しかし,このヒト肝臓オルガノイドは肝細胞マーカー遺伝子やCYP3A4活性を発現していたが,成人由来の肝細胞を用いた場合の樹立効率や細胞増殖性は高くなかった.このような背景から,ヒト肝臓オルガノイドの医薬品開発過程への実装には,高い機能を持つ肝細胞を効率的に供給することを可能にする技術の開発が必要である.
筆者らは,ヒト肝臓オルガノイドの医薬品開発過程への実装を目的とし,肝機能と汎用性を兼ね備えたヒト肝臓オルガノイドの分化技術の開発に成功した(Fig. 1).この方法の特徴は,単純な二次元培養での成熟化を可能にした点にある.二次元培養を導入した理由は,オルガノイド培養に必須のマトリゲル(基底膜マトリクス製品)存在下では候補化合物や代謝物などがゲルに捕捉される可能性があり,正確な薬物動態評価や肝毒性評価ができないことが懸念されたからである.また,医薬品開発過程におけるPHHsを用いた試験の多くは二次元培養状態であるため,ヒト肝臓オルガノイドもPHHsと同様のフォーマットにて成熟化した方が,実装を想定した際に移行し易いと考えられた.

そこで,ヒト肝臓オルガノイドをマトリゲルから取り出して単細胞化し,プレートへと播種した状態での分化誘導法の開発を試みた.ヒト肝細胞の維持に必須とされる,あるいは肝前駆細胞から肝細胞への分化に関与することが報告されている化合物やサイトカインを対象にスクリーニングを行い,100通りを超える条件から特定の条件を決定した.31)独自開発の条件でヒト肝臓オルガノイドから誘導された肝細胞様細胞をhuman liver organoid-derived hepatocyte-like cells(Org-HEPs)と呼称する.まず,Org-HEPsの性質を評価するために,遺伝子発現量解析を行った.肝細胞マーカー遺伝子及びトランスポーター,薬物代謝・抱合酵素遺伝子の発現は,分化前のヒト肝臓オルガノイドと比較して分化後のOrg-HEPsにおいて同程度か増加傾向にあった.したがって,独自に決定した条件において,ヒト肝臓オルガノイドは肝細胞様の細胞へと分化していることが示唆された.続いて,形態学的評価を行った.位相差顕微鏡像よりOrg-HEPsは肝細胞特有の敷石状の形態を認めた.免疫蛍光染色では,肝細胞マーカー(albumin: ALB及びhepatocyte nuclear factor 4α: HNF4α, CYP3A4)が発現することを確認した.また,肝細胞の主要な機能の一つであるグリコーゲンの貯蔵能を有しているか評価するためにパス(periodic acid Schiff: PAS)染色を行った.その結果,大部分の細胞において赤紫色の染色領域が認められたことから,Org-HEPsはグリコーゲンの貯蔵能を有していることが示唆された.さらに,Org-HEPsの分化効率を評価するために,肝細胞マーカー(HNF4α及びCYP3A4)陽性細胞の割合をFACSにより測定した.その結果,HNF4α陽性率は,分化前のヒト肝臓オルガノイドにおいて43.6%であったが,Org-HEPsでは99.6%まで増加した.CYP3A4陽性細胞の割合は,分化前のヒト肝臓オルガノイドで5.1%であったのに対し,Org-HEPsでは96.7%まで増加した.したがって,独自に開発したヒト肝臓オルガノイドの分化手法では,高効率にOrg-HEPsを作製できることが示唆された.なお,異なるドナー由来の複数のPHHsから樹立されたヒト肝臓オルガノイドを用いて,独自開発の条件の分化効果の再現性を確認している.以上の結果から,われわれはヒト肝臓オルガノイドから高い機能を有した肝細胞様の細胞を作製可能な培養条件の開発に成功した.
Org-HEPsの医薬品開発過程への実装へ向けて,PHHsの機能との比較を行った.まず,肝臓の主要な機能である薬物代謝・抱合酵素の活性の測定を試みた.薬物動態への寄与が大きいCYP分子種とUDPグルクロン酸転移酵素(UDP glucuronosyltransferase: UGT)1A1活性を測定するために,各酵素の特異的な基質を作用させ,その代謝物をLC-MS/MSにより定量した.その結果,CYP1A2及びCYP2C8, CYP2C19, CYP2E1, CYP3A4, UGT1A1の活性は,PHHsの活性値とOrg-HEPsの活性値で同程度の値を示した.この結果から,Org-HEPsは,PHHsに匹敵する薬物代謝・抱合酵素の活性を一部有しており,薬物動態評価試験へ応用可能であることが示唆された.
続いて,Org-HEPsを長期に培養した際,その機能や発現がどのように変動するか検討した.ヒト肝臓オルガノイドからOrg-HEPsへの分化過程において,播種直後(day 0)から15日目(day 15)まで継時的な遺伝子発現量解析を行った.その結果,肝細胞マーカー遺伝子(ALB及びCYP3A4)は播種後から培養に伴い発現が上昇した.さらに,CYP3A4活性を継時的に測定した結果,播種後から継時的に活性値が増加しており,day 0と比較してday 15では約850倍にまで増加した.さらに長期間の培養が可能であるか検討するため,播種後から30日目(day 30)まで培養し,解析を行った.その結果,day 20及びday 30においても,day 15と同等のレベルでALB及びCYP3A4の遺伝子発現が維持されていた.CYP3A4活性を比較した結果,day 30においても,PHHsに匹敵する活性が認められた.以上の結果から,独自に開発したヒト肝臓オルガノイドの分化誘導法は,細胞の肝機能を約30日間維持可能であることが示され,長期の肝毒性評価試験や薬物動態試験に応用可能であることが示唆された.
医薬品開発過程において,PHHsは薬剤誘発性肝障害の予測試験や薬物代謝酵素誘導試験に用いられる.そこで,PHHsと同様の精度で,Org-HEPsを用いて肝毒性評価試験や薬物代謝酵素誘導試験が可能か検討を行った.まず,薬剤誘発性肝障害を引き起こすことが知られている薬剤(Acetaminophen及びtroglitazone, amiodarone, clozapine)を,Org-HEPs及びPHHsへ作用させ細胞生存率を測定した.その結果,いずれの薬剤を作用させた場合においても,薬剤の濃度依存的にOrg-HEPs及びPHHsの細胞生存率は低下した.また,細胞生存率の低下の度合いは,いずれの細胞においても同程度であった.したがって,Org-HEPsはPHHsと同程度の精度で薬物誘発性肝障害の予測が可能であることが示された.続いて,薬物代謝酵素の発現誘導作用が知られている薬剤(Omeprazole及びPhenobarbital, Rifampicin)をOrg-HEPs及びPHHsに作用させ,薬物代謝酵素の発現変動を解析した.その結果,DMSO作用群と比較して,Omeprazoleを作用させたOrg-HEPsではCYP1A2の発現が31.2倍まで増加し,PHHsにおいては24.1倍まで増加した.同様に,Phenobarbitalを作用させたOrg-HEPsにおけるCYP2B6は5.3倍,PHHsでは4.2倍まで増加した.Rifampicinを作用させた場合,Org-HEPsにおけるCYP3A4は28.6倍に増加し,PHHsでは8.7倍まで増加した.これらの結果から,Org-HEPs及びPHHsにおける薬物代謝酵素の誘導能は同程度であることが示唆された.
以上にように,独自に開発したOrg-HEPsにおける主要な薬物代謝酵素の活性は,PHHsに匹敵する水準であった.また,肝毒性や薬物代謝酵素誘導の評価もPHHsを用いた場合と同等の感度で実施可能であることを確認した.31)これらの結果は,ヒト肝臓オルガノイドの社会実装を可能にする重要な知見であり,医薬品開発過程における新たな肝細胞供給源として有力な候補になり得ることが示唆された.
本稿では,PHHsの培養技術を中心に紹介した.特に,ヒト肝臓オルガノイド培養技術と筆者らが独自に開発した分化誘導技術を組み合わせることで,PHHsの抱える2つの問題(播種後に肝機能が低下すること,供給量に制限があること)を解決し得ると考えられる.引き続き,Org-HEPsの性質の詳細な解析を行いながら,医薬品開発過程への実装を目指す.今後,本研究成果だけでなく種々の新たな肝細胞モデルが実用化され,医薬品開発の加速化や高度化が実現することを期待する.また,このような新たな肝細胞供給源は医薬品開発過程だけでなく,肝炎ウイルスや再生医療などの研究分野においても有用な細胞源である.肝細胞の培養技術やその分化技術がより一層発展し,幅広い研究分野への応用と社会への貢献を期待したい.
本研究の一部は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の課題番号JP23fk0210088の支援をうけた.また,AMED生命科学・創薬研究支援基盤事業創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)の課題番号JP24ama121052の支援を受けた.
開示すべき利益相反はない.
本総説は,日本薬学会第144年会シンポジウムS05で発表した内容を中心に記述したものである.