山野研究紀要
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「リチャード3世」の劇的アイロニイ
近内 トク子
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1999 年 7 巻 p. 19-31

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抄録

Shakespeareはその生涯に,40篇近い劇作品を書いたが,喜劇,悲劇,歴史劇とジャンルの違いはあっても,どの作品にも皮肉な視点が組み込まれている。"Gentle Shakespeare"と称された詩人であるが,作品の中には必ずピリッと辛いわさびが効かしてあった。しかしこの工夫が,彼の作品を一筋縄では片付けられない,面白いものにしているのである。彼の悲劇作品では,詩人は劇的アイロニイを追求した。Richard IIIは歴史劇であるが,さまざまな劇的アイロニイが描かれている。劇的アイロニイは,悲劇的アイロニイと呼ばれることもある。劇的アイロニイの最も典型的な例は,他人事と思って発言したことが,自分自身の身に跳ね返ってくる皮肉な運命を言う。例えばRichard IIIの中のHastings公は,Richard王の誘導尋問にかかって,王に魔法をかけた者がいるなら,誰であろうと死刑にすべきだと答える。王はHastingsを魔法使の仲間だと言って,即刻死刑にすることを要求する。暴君Richard王ならではの行為である。この他Richard IIIには,Richard王自身にまつわる究極のアイロニイとも言える,運命の皮肉が作品の中に用意されている。

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© 1999 学校法人山野学苑 山野美容芸術短期大学
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