日本養豚学会誌
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原著
日本におけるブタ人工授精技術に関する実態調査
河原崎 達雄片岡 岳志
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2019 年 56 巻 3 号 p. 106-118

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抄録

我が国のブタ人工授精の現状を把握するため,人工授精技術の利用率,精液手配の方法,精液の採取,保存,注入方法等について調査した。調査は日本養豚協会が提供する国産豚肉に関する生産情報·豚トレーサビリティサイト(豚トレ)に連絡先を公開している農場に対して,電子メールあるいはファックスにより実施した。母豚を飼育している834農場に対してアンケートを依頼し,19.5% (163農場)の回答を得た。回答農場のうち42.9% (70/163)が人工授精のみ,49.7% (81/163)が人工授精と自然交配を併用して交配を行っていた。人工授精の利用率は母豚の飼育頭数が増加するに従い増加した(P<0.05)。雄ブタ1頭に対する母豚飼育頭数は32.9頭(73,218/2,223頭,162農場)に留まっていた。56.6% (56/99農場)では,精子の運動性や生存性に有害であることが指摘されているニトリルゴム製あるいは生ゴム製の手袋を使用していた。44.8% (64/143農場)では,深部注入器を利用しており深部注入器の使用が進んでいることが確認されたが,従来法と同じ注入精子数,精液量で人工授精が実施されていた。36.7% (55/150農場)で離乳時の定時的なホルモン処理が行われており,そのほとんどはウマ絨毛性性腺刺激ホルモンの単独投与であった。本調査から,ブタ人工授精の普及は大規模農場を中心として進んでいること,深部注入法など新技術を取り入れる傾向はあるが,その利点は十分に生かされていないことが明らかになった。これらのことから,我が国におけるブタ人工授精は,新技術等を有効に活用することにより今後さらに進展させる必要があるものと示唆された。

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