有機合成化学協会誌
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合成化学的にみたラジカル反応
右田 俊彦
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1969 年 27 巻 7 号 p. 609-621

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抄録

1961年本誌に同じような標題のもとに、ラジカル反応のうち比較的収率のよい反応をあつめ, その後それらの反応に対する機構論的観察をとりまとめた。また古くから知られた反応までも含めて, 現在まで行なわれた実例がSosnovskyによって集録されている。
ラジカル反応の合成化学的開発という意義をもつ研究はいまもなお盛んに行なわれているが, ここではその後見出された種々の反応を紹介すると共に, ラジカル反応を合成化学に利用するときの考え方に論点を向けてゆきたいと考えている
多くのラジカル反応の教科書にみられるように, ラジカルの行なう反応を素反応別にわけると次のようになる。
1.ラジカル1個の行なう反応
R・→R'・+M (ラジカルの分解)
R・→R'・ (ラジカルの転位)
2.ラジカル間の反応
R・+R・→R-R (会合反応)
R・+R・→RH+R (-H) (不均化反応)
3.ラジカルの酸化・還元
R・+e→R : 〓
R・-e→R⊕
4.不飽和分子への付加
R・+>C=C<→R-C-C・
R・+O2→ROO・
5.飽和分子との置換反応
R・+X-C-→R-X+・C- (x-ひきぬき反応)
R・+RLS-S-R, →R-S-R'+R'S・ (メタセシス)
合成化学的に用いるという観点からこれらの反応を眺めてみよう。
1.の反応はラジカルは安定分子を放出しつつ他のラジカルに変化し, あるいはより安定なラジカルに転位することがあることを示すもので, 中間に生ずるラジカルについてこの反応の可能性を考える必要がある。そして分解もしくは転位がきわめて収率よくおこるときは, それを利用して合成化学的に用いることもできよう。
ラジカルに対してきわめて活性な芳香族化合物は過酸化ベンゾイルによってベンゾキシ化することができるが, 一般の芳香族化合物はフェニル化をうける。前者は過酸化物の分解によって生ずるベンゾキシラジカルの反応を, 後者はベンゾキシラジカルの分解で生じたフェニルラジカルの反応を利用した芳香核置換反応である。
(C6H5COO) 2→2C6H5COO・ArH→ArOOCCC6H5
C6H5COO・-CO2→C6H5・ArH→ARC6H5
3, 3-ジクロルプロペンに臭化水素をラジカル的に付加させるとき生成物は1, 2-ジクロル-3-プロムフロパンである。これは臭素原子がオレフィンに付加して生ずるラジカルに次の転位が行なわれたものである。
Cl2CHCH=CH2 →Br・→Cl2CHCHCH2Br→o
ClCHCHCLCH2Br→HBrClCH2CHCLCH2Br
しかし, ラジカルの分解または転位が重要な段階となる合成反応は少ないといってよい。
2.の反応はラジカル2個が反応して安定分子を形成する反応である。このうち同種のラジカルが会合する反応は, 対称的な構造をもつ化合物の合成に用いられることがある。そのいくつかの例は先に上げた総説の中に集録したのでそれを参照していただきたい。
不安定な多くのラジカルは溶液中では直ちに溶媒分子と反応するので, 会合が収率よくおこることを期待するためには生じたラジカルが多少とも安定でなくてはならない。クメン中過酸化物を分解させて1, 2-ジメチル-1, 2-ジフェニルブタンをつくる方法などがその典型的な例である。
Ph-CH (CH3) 2 R・→Ph-C-CH3-CH3→Ph-Me-C-Me-Me-C-Me-Ph
したがってその適用範囲もそう広いものではない。ラジカルを電解法によって発生させるときは, ラジカルの濃度が電極の近くに高くなるので, このような会合反応が期待できることがある。Kolbeの電解による炭化水素の合成はその例である。
2CH3COO--e→2CH3COO・→-CO22CH3・→C2H6
反応3.は炭素ラジカルを金属イオン等によって酸化あるいは還元してカルボニウムイオン, カルバニオンとする反応である。ラジカルは水とは反応しないが, カルボニウムイオンなどは水と容易に反応して相等するアルコールをうることができる。この種の研究は最近主としてKochiによって手広く行なわれている。なお今後の開発が期待される分野である。
反応4, 5はラジカルの安定分子との反応である。不安定なラジカルは溶液中に発生すると, 直ちに溶液中の安定分子と反応4, 5の形式にしたがって反応する。したがって, 今日までに知られた合成に用いうる適用範囲の広い反応は, 反応4.あるいは5.の組み合せからなる連鎖反応であることは当然のことである。ここでも主してこの種の反応をとりあつかうことにする。

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