2001 年 59 巻 5 号 p. 428-429
含フッ素有機化合物は近年, 医農薬や材料化学などの応用分野で大きな注目を集めている。しかしながら, 含フッ素化合物の合成法は必ずしも整備されておらず, さらに残念なことには, 有機合成化学の中でフッ素置換基の性質が充分に活用されているとは言い難い。
フッ素は, その大きな電気陰性度と非共有電子対の働きにより, 近傍のカチオン・アニオンに興味ある電子的性質を及ぼし, さらにフッ化物イオンとしての脱離能を併せ持つ。我々は, こうした「フッ素の特性」を合成反応へ積極的に利用することで中間体の反応性を制御し, 含フッ素化合物であるが故に進行する選択的な合成反応の開発を目指している。本稿では, フッ素置換基によって基質の活性化と反応の制御を実現した例を二つ挙げ, 「合成ツールとしてのフッ素」の有用性を紹介したい。