有機合成化学協会誌
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効率的な糖鎖合成を目指して
深瀬 浩一
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2001 年 59 巻 5 号 p. 504-505

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抄録

有機合成化学は生体分子の機能やそれらの関与する生命現象の解明に多くの貢献をしてきたが, 増え続ける多様なターゲットに対応していくために様々な生物活性分子や分子プローブを短時間に効率的に見いだす方法が必要とされている。筆者が主に取り組んでいる糖化学においても糖鎖や糖生合成酵素, 糖加水分解酵素の機能を解析するためにより効率的な糖鎖合成法を見いだしていく必要がある。
糖鎖は細胞分化, 神経機能, 細胞接着, 炎症, 癌の転移, などに関わっており, インフルエンザウイルス, コレラ毒素, ベロ毒素の受容体が糖あるいは糖鎖であること等, 生体内で極めて多様な役割を担っていることが明らかにされてきた。ところが重要な機能を有する糖鎖は一般に天然には微量しか存在しないことが多いだけでなく, 多くの場合構造が不均一であるため, 精密な機能解析が困難であることが多い。糖鎖合成は均一な構造を有する糖鎖を供給することで, 糖鎖機能の解明に大きな役割を果たしてきた。バクテリア表層の免疫増強活性糖質の化学はその代表例である。高等動物は, バクテリアの構成成分 (細胞壁ペプチドグリカン, グラム陰性菌のリボ多糖など) をバクテリア侵入のシグナルとして感知し, 自らの免疫系を活性化する自然免疫と呼ばれるシステムを有している。芝, 楠本らはこれらの化合物が示す作用が特定の分子構造に由来することを, リボ多糖の生物活性中心であるリピドAならびにペプチドグリカンの部分構造の合成によって明らかにした。さらに我々は生体はリピドAの特定の立体構造を認識していることを示した。最近リボ多糖受容体の候補としてTLR-2ならびにTLR-4が報告されたが, 我・々の合成化合物を用いてTLR-4がリボ多糖受容体であることが示された。
糖鎖合成においては, 特定の水酸基の選択的な保護と脱保護, グリコシド結合の立体選択的形成を行う必要があり, 合成経路の設定など経験を要するものも多く, 糖鎖合成はいまだに容易なものではない。我々は効率的かつ汎用性のある糖鎖合成法を確立させることを目指し, 糖鎖合成の基本をなす水酸基の保護ならびにグリコシル化反応について新規な方法を開発した。さらには糖鎖の固相合成, 固相-液相ハイブリッド法, 糖鎖の化学-酵素合成法について研究を行ってきた。

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