21世紀に入り、ヒトをはじめ多くの哺乳類の全ゲノム配列が解読され(http://www.broadinstitute.org/scientificcommunity/science/projects/mammals-models/29-mammals-project)、ゲノム全体にわたる数十万個のSNPを一度に解析できるSNPチップの開発や、一回の解析で数十万から数十億配列解析可能という次世代シークエンサーの出現により、遺伝学的研究は大きく姿を変えた。昨年、本誌で紹介されたウシの遺伝性疾患のゲノム解析(平野 2011)と同様に、イヌにおいても質・量ともに解析に十分なサンプルが収集されれば、数ヶ月から1~2年という短期間で単一遺伝子疾患の原因遺伝子の同定までたどり着き、解析に用いた疾患個体の治療に生かすことも夢ではなくなった。しかし、その解析には臨床獣医師と遺伝学者の密接な協力体制が欠かせず、既存のネットワークを超えて連携することが必要である。ヨーロッパでは、イヌの遺伝性疾患のゲノム解析を組織的に行うために12カ国22の大学・研究機関が共同で、1200万ユーロもの大型予算を用いたLUPAプロジェクトが2007年から2012年にかけて実施された。筆者は、その基幹研究室の一つであったベルギーのリエージュ大学Michel Georges教授の研究員として、本プロジェクトに参加する機会に恵まれた。本稿は、LUPAプロジェクトの背景と概要、主な研究成果、そして今後の展望を紹介するものである。
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