本研究の目的は、我が国における商業的に一般的な収容面積(0.7m^2/頭)での輸送における肥育素牛の生理反応を、実験的に設定したより広い収容面積(1.6m^2/頭)での輸送における生理反応と比較することであった。大型の家畜運搬車(最大積載重量13,700kg)による商業的な2回の輸送において各28頭を夏季に使用し、このうち各6頭、合計12頭について調査した。より広い収容面積での実験的な輸送では、中型の家畜運搬車(4,000kg)を用いて5頭を調査した。血中グルコース濃度(mg/dL)は、より広い収容面積での輸送(24.4±7.8)に比べて、商業的な輸送(33.8±12.0)において高くなった(P<0.01)。血中乳酸濃度(mmol/L)も、より広い収容面積での輸送(0.81±0.19)に比べ、商業的な輸送(1.84±1.51)で高くなった(P<0.05)。血清アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)活性(IU/L)も同様に、より広い収容面積での輸送(15.1±3.0)より、商業的な輸送(22.8±7.8)において高くなった(P<0.01)。商業的に輸送された直後に測定された血清トリヨードサイロニン濃度は、両方の収容面積で輸送された1週間後に測定された値と比べ有意に高かった(ともにP<0.05)。また、商業的輸送の直後に測定された血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)活性は、より広い収容面積で輸送された直後や両方の収容面積で輸送された1週間後に比べて有意に高かった(すべてP<0.01)。以上のことから、我が国の商業的輸送で一般的な収容面積では、たとえそれが福祉基準を満たしていたとしても、夏季においてはより広い収容面積での輸送に比べて、牛に負荷されているストレスが幾分強くなっていることが示唆された。
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