台湾からインドネシアにかけて調査を行ったすべての地域でナミハダニ
Tetranychus urticae(黄緑型)とカンザワハダニ
T. kanzawaiの分布が確認された.日本の暖地における発生と同様に,ナミハダニの分布は局地的で発生は栽培植物に限られた.わが国西南部から東南アジアにかけて発生するすべてのナミハダニ個体群の休眠性はいずれもきわめて弱かった.一方,カンザワハダニは東アジアではもっとも普通種で,栽培植物だけでなく野生植物でも発生が見られたが,東南アジアにおける発生は栽培植物に限られていた.休眠率が緯度の低下とともに低くなるナミハダニと異なり,カンザワハダニの休眠性の変異には一定の地理的傾向が見られなかった.韓国や中国中南部の個体群は,わが国の九州以北の個体群と同様に休眠性がきわめて強かった.一方,タイおよび琉球列島の個体群の休眠性は非常に低かった.逆に,熱帯のインドネシアやフィリッピンの個体群は強い休眠性を維持していた.また台湾では休眠性は個体群によって著しく異なった.これらの休眠性の変異を,分子遺伝マーカーによる解析結果(Hinomoto et al., 2001; Hinomoto et al., 2007a, b)と照らし合わせて,2種ハダニの分布拡大のプロセスについて言及した.
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