2016年の8月に神奈川県相模原市の水田で水生カメムシ類の採集を行い,それらへのミズダニの寄生状況を調べた.調査期間中にミズカマキリ1個体,アメンボ48個体,コオイムシ86個体が採集され,その中でコオイムシ18個体にダニが寄生していた.ダニはすべて第1蛹の段階だったが,若虫まで飼育して分類群の同定を行った結果,全てのダニがオオミズダニの一種であることが明らかになった.オオミズダニの一種はコオイムシのみに寄生していたことから,コオイムシに対する宿主選好性があると考えられるが,宿主であるコオイムシへのダニの寄生率ならびに寄生数と,宿主の発育段階(成体・幼体)ならびに性との関連は見られなかった.一方,寄生されていたコオイムシの体サイズは寄生されていなかったコオイムシの体サイズより有意に大きかった.また,ダニの寄生数はコオイムシの体サイズと正の相関がみられる傾向があった.これらのことから,オオミズダニの一種がコオイムシと出会う機会はコオイムシの発育段階や性が異なっていても同じであると思われ,体サイズが比較的大きい個体に日和見的に寄生する傾向があると考えられる.また,コオイムシの幼体は成体と比べて体がかなり小さく,体の各部位へのダニの寄生率には差がなかったが,成体では胸や肢に比べて前翅に寄生する傾向があった.コオイムシは飛翔傾向が弱く,成体の前翅は他の部位に比べて大きく動きが少ないことから,前翅への寄生率が高かった可能性がある.
サガミナミハダニはクワクサを主な寄主植物とし,夏から秋にかけて高密度となる.サガミナミハダニがクワクサに適応しているという予測を検証するため,本種における寄主植物の適合性,および野外密度について調査を行い,それらの傾向を普通種のカンザワハダニ(カラムシ寄生)と比較した.葉の質について,サガミナミハダニの食性幅はカンザワハダニより狭く,クワクサでもっとも産卵数と生存率が高かったことから,クワクサに適応している可能性が示唆された.しかし,クワクサ上での産卵数や発育速度はカンザワハダニとは有意差がなかった.一方,野外ではサガミナミハダニとカンザワハダニはそれぞれクワクサとカラムシにしか見られず,サガミナミハダニの葉面積当たり密度はカンザワハダニよりも高かった.この傾向は,クワクサ上では捕食者のケナガカブリダニの密度が低いことと関係している可能性がある.