ポリアミド6(PA6)について,プロトンのスピン-スピン緩和時間(T2)をパルス法NMRによって測定し,水分吸着および温度による構造変化を解析した。乾燥したPA6は60℃以下では結晶およびガラス状態の非晶で構成され,単一のT2成分のみを示すが,温度の上昇,あるいは水分の吸着によって非晶の分子運動が活発になると複数のT2成分に分離された。PA6の貯蔵弾性率(G')は分子運動がきわめて低い成分(結晶とガラス状態の非晶)の量と分子運動性に依存した。一方,PA6の衝撃強度はゴム状態の非晶の量と分子運動性の増大に伴って高くなった。力学特性の変化は,水分吸着によるか温度によるかに関わらず,分子運動によって整理できることが明らかになった。
静的引っ張り荷重を受ける同種材料被着体によるスカーフ接着継手の接着界面での最大主応力分布を二次元および三次元有限要素法により解析し,接着界面応力分布の差異を明らかにした。特に,従来の多くの研究に見られる接着長さ一定の場合と,被着体幅一定とした場合の接着界面応力分布や継手強度の差異を検討した。被着体幅一定の場合の最適スカーフ角を検討し,接着層の縦弾性係数と接着層厚さの接着界面応力分布に及ぼす影響を調べた。三次元FEM計算では,スカーフ角が約60°で最大主応力は最小になることが示された。三次元FEM解析結果の妥当性を検証するため,ひずみ測定実験を行い,その実験結果と比較したところ,最大主応力およびミーゼス応力のいずれの結果とも両者がかなりよく一致し,さらに継手強度はスカーフ角θが約60°で最大になることが示された。被着体幅一定の継手強度が接着長さ一定の継手強度より大きいことが示された。
粘着テープにおけるタックの接触時間にともなう上昇性に影響する因子を明らかにしようとした。このためにベースポリマーにアクリル酸を5mol%含むアクリル酸ブチル-アクリル酸ランダム共重合体を用い,添加する架橋剤の量を変化させた。プローブタック試験により,2種類の剥離速度でタックと破壊エネルギー(接着仕事)の接触時間依存性を測定した。剥離速度10mm/sの場合,タックは接触時間にともなって上昇し,架橋剤濃度にともなって低下した。また,接触時間にともなう上昇の程度は,架橋剤濃度にともなって低下した。破壊エネルギーも同様であった。これに対して1mm/sの場合は,傾向が大きく異なった。タックの上昇性は,架橋の程度およびタックへの界面の密着性と凝集力の相対的な寄与度の違いに大きく影響を受けることが分った。また,タック特性を考察するのに,種々の剥離速度におけるタックと破壊エネルギーの関係を比較することが有益であった。