発達性協調運動症(DCD)に代表される運動面の不器用さは自閉スペクトラム症(ASD)で指摘されている模倣機能の弱さに関連があるとされており、その神経生理学的基盤はミラーニューロンシステムである。その活動は脳波周波数のうち感覚運動野のmu波が反映し、自身の動作遂行時と他者の動作観察時、運動イメージの想起時に抑制される。本研究では、定型発達成人29名を対象に(1)動作遂行時(2)他者の動作観察時(3)無生物の動作観察時(4)ランダムドットパターンとメトロノーム音の視聴時の脳波のmu波成分について、ASD傾向およびDCD傾向との関連を分析した。その結果、ASD傾向との関連とDCD傾向との関連のいずれにおいても、動作遂行時と動作観察時にASD傾向またはDCD傾向の弱い群でよりmu波の抑制が認められた。以上より、ミラーニューロンシステムの活動はASD傾向およびDCD傾向の高さの影響を受け、両者にみられる不器用さは背景を共有する可能性が推察された。
本研究では過去30年間に蓄積されてきた不登校研究から主要な研究テーマの抽出や年代ごとの傾向分析を行い、不登校研究における年代別の特徴や扱われたテーマの変遷を整理し、今後の不登校研究について展望することを目的とした。不登校に関する967本の文献の題目をKH Coderを用いてテキストマイニングにより分析した。共起ネットワーク分析により過去の不登校研究に関する文献が8つのカテゴリーに分類され、対応分析により年代ごとの特徴語が抽出された。結果から、不登校研究における主要な研究テーマが、不登校を治療・予防するという視点から、不登校生に対する学校外機関や心理面へのアプローチの充実へと変遷したと考えられた。今後は発達障害のある不登校生や大学生等の児童生徒以外の不登校に対する関心の高まりを踏まえ、不登校研究がその対象を広げ、対象者の状態やニーズに応じた個別具体的な支援が提供されることが期待される。
本研究では、米国の才能教育の現場で使用されている2つのチェックリストを参考に、2E (Twice exceptional) の才能面の評価に焦点を当てた教師用チェックリストを試作し、2Eの可能性がある小学生の同定を試みた。チェックリストの信頼性と妥当性、チェックリストの適用可能性の可能性について検討することを目的とした。公立小学校通級指導教室の教師8名を対象に、同教室の利用児童38名の才能について試作したチェックリストによる調査を実施した。1児童につき2名の対象者が回答した。その結果、調査項目には一定水準の内的整合性が確認された。一方、評定者間信頼性は38事例中17事例で中程度の相関が示された。しかし、21事例では有意な相関がみられなかった。本研究を通して、我が国の教師による才能の評価が不一致傾向にあることが推察された。今後の課題として、通常学級の教師にも対象を広げ、チェックリストの信頼性と妥当性をさらに高めていく必要があることが示された。
本研究の目的は、発達障害のある児童が過ごしやすい学級経営を行う学級担任の教育的対応の特徴を明らかにすることである。雰囲気が良好な学級の担任を選出して半構造化面接を行い、M-GTAによって分析したところ、【学級経営】【児童との関わり】 【問題が起きた際の対応】【児童同士が円滑な人間関係を築くための指導】【児童の実態に合わせた対応】の5つのカテゴリーが得られた。発達障害のある児童が過ごしやすい学級経営の特徴は、学級全員が支え合い育ち合うことのできる関係性を構築するための学級経営を基盤とし、児童と教員が信頼関係を築き上げることで良好な学級雰囲気を醸成していることが明らかになった。今後は、本研究で得られた知見を踏まえ、発達障害のある児童生徒を対象に調査を行うほか、雰囲気が良好でない状態にある学級の分析をすることで、より多角的な要素を組み込んだモデルを創造する必要があると考えられる。
本研究では、自閉スペクトラム症のある幼児・児童6名を対象に、課題を一種類のみ提示する条件と複数種類提示する条件を既に学習済みの課題を用いて比較し、課題従事行動促進への効果を検討した。具体的には、操作交代デザインを用いて、既学習課題における正反応率の維持と観察者2人による対象児の課題従事の様子の評価を比較した。その結果、正反応率の維持と課題従事の様子の評価は、全ての対象児において、2条件間で大きな差は見られなかった。また、既学習課題を用いても、繰り返し提示することで、正反応率が維持せずに低下することがあった。この結果について、課題の提示方法によって課題への注視行動が異なっていた点と既学習課題を用いたことによる影響について考察する。
通級担当者によって自尊感情が低いと推測された児童生徒が、指導を受ける中で、効果や変化を感じるに至った過程を明らかにするため、14名の児童生徒とその通級担当者に面接調査を行った。M-GTAで分析を行った結果、【指導前の印象】【指導中の印象】【担当者への信頼感・安心感】【指導への必要感】【他者との交流】【心理的な変化】【対人関係の変化】の7つのカテゴリと29の概念から成る関連モデルが生成された。指導前に持っていたネガティブな印象は残しつつも、担当者への信頼感や安心感の基で指導を受ける中、心理的な変化や対人関係の変化につながっていくという過程が見出された。本研究の結果、児童生徒が語ったポジティブな内容は、通級担当者が指導上大切にしている内容と概ね一致していた。また、指導の内容は、自己評価や自尊感情といった自己概念の評価に影響を与えていることが考えられた。
本研究は、特別支援学校 (知的障害) の担任チームの協働を促進するため、教員間の実態把握の相違を確認し合う「協働アセスメント」と、放課後に担任が事例検討を短時間で行う「5分間ミーティング」を実施し、その成果と課題を実践的に検討することを目的とした。アクションリサーチを研究手法とし、研究協力校の実践に関与しながら研究を実施した。研究協力校は28学級を有する知的障害を主な対象とした特別支援学校1校であった。研究期間に、協働アセスメントを1回、5分間ミーティングを13回実施した。教員を対象にした事後アンケートの結果、協働アセスメントは担任の実態把握を深めること、5分間ミーティングは事例検討対象の子ども、担任のチーム・ティーチング、学級単位の授業作りの質に影響を与えることが示唆された。
外国にルーツのある子どもの学習困難は、言語環境に起因する第二言語の低い習得度が原因と判断されやすく、学習障害と特定されるまでに時間がかかる。本研究は、これに該当する中学2年男児を経験したので報告する。客観的な検査により、本事例の語彙・読み書き能力は小学校低学年以下であり、文字習得に関与する認知能力に弱さがみられた。本事例の約11年という在日期間を考えると、本事例の低い日本語能力を環境要因のみでは説明できず、学習障害が疑われた。小中学校では、言語環境に起因する学習困難と考え、学習障害が疑われることはなかった。本事例を通して、外国にルーツのある子どもへの指導経験が教員に不足している、外国にルーツのある子どもの学習困難の背景に学習障害があるという可能性が教員に認識されていないことなどが原因で、外国にルーツのある子どもは学習障害に関するアセスメントにつながりにくいという現状があるように思われた。
本研究では、小学2年生の盲児1名に対し、小学部社会科点字教科書に掲載されている地図の読解に向け、具体物教材と図を往還的に用いながら、図の読み取り能力育成のための導入的指導の実践を行った。指導前に実施した課題では、図の特徴を直観的に捉える姿が目立ち、図の読み取りに関する困難さの一つに全体と部分の位置関係の理解があることが明らかとなった。そこで指導時には、座標や枠など外部の基準を有する「はめこみ教材」「ひもとおし」「オセロ」の3種類の具体物教材を活用し、これらと図を対応させるとともに、触察から得られたイメージの言語化を重視した。指導後に、指導前と同一の課題を実施したところ、より正確な位置で各記号を捉えられるようになり、全体との位置関係を踏まえた図の読み取り能力の向上が確認できた。また、課題構成時の児童の指の動きの分析からは、枠などとの位置関係を意図的に確認する行動の増加が読み取れた。
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