障害科学研究
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最新号
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原著
  • —コンピテンス感と重要度評価の関係—
    篤田 直人, 小林 秀之
    原稿種別: 原著
    2024 年 48 巻 1 号 p. 1-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    弱視生徒の自尊感情の特徴を明らかにするために質問紙調査を行った。対象者は特別支援学校中学部に在籍する弱視生徒27名である。自尊感情を構成する下位領域である行動、家族、友人、外見、運動、学業の6領域の重要度評価及びコンピテンス感の観点から分析を行った。その結果、全体の傾向として家族・友人領域のコンピテンス得点が高いこと、女子の方が全般的自尊感情得点が高いこと、3年生の全般的自尊感情得点が1年生よりも低いこと、弱視生徒の自尊感情は家族・友人関係をベースとして構成されていること、友人領域の重要度評価を自己防衛方略によって操作することで全般的自尊感情の低下を防いでいる可能性があることが明らかになった。
資料
  • 青木 康彦, 野呂 文行
    原稿種別: 資料
    2024 年 48 巻 1 号 p. 11-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究では、ASD児において玩具よりも食物の方が好みや強化価が高いという知見の再現を目的として、ASD児4名に対して、食物と玩具を含めて一緒に呈示するpreference assessmentを実施した。さらに、食物と玩具の強化価を検討するためにreinforcer assessmentを実施した。preference assessmentでは、multiple stimulus without replacement (以下、MSWO) を実施した。まず、食物5つ、玩具5つそれぞれに対してMSWOを実施した。その後、好みの順位が高かった食物2つ、玩具2つに対して食物と玩具を一緒に呈示するMSWOを実施した。そして最も好みの順位が高かった食物1つ、玩具1つに対してreinforcer assessmentを実施した。preference assessmentの結果、4名中3名で好みの順位が1位であったのは食物であった。さらにreinforcer assessmentを2名に実施したところ、食物の方が玩具よりも、標的行動の生起頻度を増加させる強化子として機能する結果を示し、preference assessmentを支持する結果となった。しかし、2名中1名で玩具は強化子として機能する可能性が示され、食物だけではなく玩具を強化子として利用できる可能性を示唆した。
  • 池田 彩乃
    原稿種別: 資料
    2024 年 48 巻 1 号 p. 21-33
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究は、複数教師が関与する自立活動の指導に関して、特別支援学校教師が抱く対人葛藤の内容と対処方略について明らかにすることを目的とした。自立活動の指導に関して専門性が高いと考えられる肢体不自由特別支援学校教師10名を対象とし、半構造化面接を実施した。その結果、複数教師が関与する自立活動の指導においては、授業の一連の過程において、様々な対人葛藤が生じており、対処方略として【意向の尊重】【合意形成】【助言や教示】【回避】の4つのカテゴリーが生成され、相手教師の状況や自身の役割意識に基づいた対処方略を選択していることが示唆された。今後は、「同調圧力」や「社会的手抜き」等の集団における意思決定の課題を軽減し、対人葛藤の解消をはかることを目指すとともに、対人葛藤がもたらすポジティブな効果を活用した教師集団の専門性の向上の在り方についても考究する必要がある。
  • —A県立B特別支援学校の事例から—
    加藤 雅子, 米田 宏樹
    原稿種別: 資料
    2024 年 48 巻 1 号 p. 35-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    特別支援学校学習指導要領の改訂により、各教科等を合わせた指導において教科等の視点が一層求められるようになった。本研究では、知的障害特別支援学校1校の小学部の指導計画や評価等から、遊びの指導に含まれている教科等を整理し、遊びの指導と教科等別の指導の関係性を明らかにした。対象校の遊びの指導には、生活や国語等の教科や様々な自立活動の内容が含まれていた。また、遊びの指導と教科別の指導の国語、体育、自立活動の時間における指導それぞれの指導計画の比較から、遊びの指導では教科や自立活動の内容が遊びの中に内包されており、教科等別の指導ではその教科や自立活動の内容を直接に学習目標・学習内容としていた。遊びの指導における教科・自立活動の割合は、学年が上がっても概ね同様の傾向を示し、変化しなかった。遊びの活動の難易度は必ずしも学年が上がるにつれて高くなるとは限らず、児童の多様な発達段階を反映していた。
  • —センター的機能における相談内容の分析を通して—
    三嶋 和也, 池田 彩乃, 阿部 晃久
    原稿種別: 資料
    2024 年 48 巻 1 号 p. 47-56
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究は高等学校に在籍する肢体不自由生徒の教育的ニーズを明らかにすることを目的とした。調査にあたり肢体不自由特別支援学校の通級による指導を終了した後、高等学校へ進学した生徒11名のセンター的機能に関する相談記録を分析対象とした。期間は平成29年度から令和4年度までとし、相談回数、相談期間、相談内容について分析を行った。相談回数は6年間で合計176回、1人あたり2回~32回 (平均16回)であった。相談期間が3年間の生徒は6名、2年間の生徒が4名、1年間の生徒が1名であった。相談内容の分析では、15個の概念が生成された。生成された概念からは、生徒自身の悩みや成長に関する相談内容が多く挙げられた。本研究において得られた結果は高等学校に在籍する肢体不自由生徒の教育的ニーズの一端を明らかにするとともに、今後の特別支援学校のセンター的機能を考究するための知見となると考える。
  • 榎戸 里佳, 左藤 敦子, 酒井 英樹
    原稿種別: 資料
    2024 年 48 巻 1 号 p. 57-72
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究では、日本語母語話者で手話初心者の大学生45名を対象に手話の語彙習得について実験的に検討した。第二言語習得で有効とされるpresentation-practice-production (PPP) とtask-based language teaching (TBLT) の教授法が手話単語の習得に与える影響を明らかにすることを目的とした。Shintani (2013) を基にして、参加者を2つの実験 (PPP、TBLT) 群と対照群に分け、実験群には30分の授業を3回行った。指導法の効果を測定するため、タスクベースと個別項目のテストを事前テスト、事後テスト、遅延テストで実施した。その結果、PPPとTBLTの教授法はどちらも手話単語の習得に効果的であり、PPPは名詞と動詞に対してより効果的であることを示した。この結果は、TBLTでの理解型タスクでは、学習者は手話の写像性により手話を大まかに理解する傾向があり、学習者が手話の細部に気づくのに時間がかかる可能性があることを示唆している。一方、PPPに使用された明示的な指導は、成人学習者が手話の詳細な表現に気づき、正確に学習するのに役立つ可能性がある。
  • 岸良 隼人, 田所 涼, 中前 佑月, 米田 宏樹
    原稿種別: 資料
    2024 年 48 巻 1 号 p. 73-85
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    戦後の特殊学級に付けられた名称を一覧化した資料は希少であり、昨今の特別支援学級の名称と関連付けた調査は行なわれていない。本研究の目的は、東京23区の知的障害特殊学級・特別支援学級の名称について、学級名の特徴や地域差、学校関係者の学級名に対する想いや意見を概観し、戦後の特殊学級・特別支援学級に関する研究の発展に寄与する基礎資料を得ることである。文献調査とWeb検索によって、昭和51・53年、平成5~8年、平成11~13年、令和元年以降の学級名と、命名・改名の経緯を調査した。230校1,957学級の学級名を整理した結果、年度を経て減少する学級名と、積極的に使用され続ける学級名が示された。また、命名・改名には区長や教員に強い決定権があるが、在籍生徒の学級名への不満が改名の契機となった事例も確認された。今後は、調査の対象地域を拡大すると共に、特別支援学級の名称の特徴が児童生徒の認識へ与える影響を調査する必要性が示唆された。
実践報告
  • —速さ向上と日常場面での活用を目指した実践—
    宮野 雄太
    原稿種別: 実践報告
    2024 年 48 巻 1 号 p. 87-98
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/09/30
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、「タイピング練習ソフト (以下、練習ソフト) を使ったパソコンのタイピング学習によって、知的障害のある児童がタイピングを向上させられるのか」、「タイピングを活用する機会を設定することで、実際に自発的に日常場面で活用されようになるのか」を検討することであった。参加児は、軽度の知的障害のある児童 1名であった。アセスメントの結果、タイピングの速さの向上を学習目標とした。練習ソフトを使った学習を行った結果、参加児のタイピングの速さは向上した。また、文書作成ソフトの指導後、自由にパソコンを使って良いことを認めると、自発的に学校の昼休みにタイピングを活用するようになった。本研究の結果より、軽度の知的障害のある児童がタイピングの速さを向上させるには練習ソフトは有効であること、日常場面で自発的にタイピングを活用するには活用機会の設定は有効であることが示唆された。
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