本稿では, マダガスカル南西海岸部のヴェズ村落における生業活動と食生活を記述・分析し, 家計の成り立ちを論ずる。調査地は, 沿岸に位置するF村と, F村から4km内陸に位置するK村である。 F村では頻繁に海で漁をおこない, おかずとなる魚を主に生産している。いっぽうK村では農耕に重点を置き, トウモロコシ, サツマイモ, メロンなど, 主食となる農作物を主に生産している。
両者においては, 食料の入手方法も対照的である。K村では, 農作物の多くを自給することにより, 不安定な国内経済に由来する物価上昇のリスクを回避している。また同時に, 食料備蓄を持たない親族の要求に屈して自分の備蓄を過剰に損失するという「リスク」をも回避するため, ほとんどの農作物を収穫直後に売り払う。つまりK村では, リスク回避の原理にもとづき, 生産物の自家消費と売却のバランスをとっているといえる。これに対しF村では, 物価上昇のリスクにも関わらず, 海産物を売って得た現金で主食を購入する。このような家計維持は, ナマコやフカヒレなど高価な輸出向け海産物の採取によって可能となっているもので, F村の家計は利潤最大化の原理にもとづくといえる。
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