中部アフリカ, コンゴ共和国北部の熱帯多雨林地域には, 焼畑農耕と淡水漁労を主生業とする西バントゥ系の民族が居住している。「バントゥ・エキスパンジョン」以後, この地域の森林地帯に到来した人々は, 絶えざる移動と分散を繰り返し, 森林環境に適応した独自の社会と文化を生み出してきた。中でも, 彼らと「ピグミー」と呼ばれる狩猟採集民の間にみられる「共生関係」は, この地域の社会システムを理解し, 多民族が共存する中部アフリカの文化を知る上で, 重要な要素と言える。
この魅力的なテーマに関して, これまで, 数多くの先行研究がなされてきたものの, その大半は, 狩猟採集民の側からの記述であり, また, 両者の関係を静態的に描いたものであった。本論では, 従来の研究と異なり, サンガ系の焼畑農耕民と「ピグミー」系の狩猟採集民アカを対象に, 両者の相互関係を, 焼畑農耕社会に力点をおいて, 動態的に描くことを試みた。筆者は, 農耕社会にみられる「不平等」と「家 (house)」という社会単位の存在を明らかにし, 農耕民と狩猟採集民の相互関係を, 農耕民の家という文脈における, 社会的・政治的な相互交渉の過程として描いた。
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