ガーナ北部では,押し寄せる市場自由化の波によってそれまでの自給的性格の強い農業が変化しつつある。本稿では,ガーナ北部で実施した7年間の継続調査の結果をもとに,コンパウンドにおける作物別作付面積の推移および作物の消費・販売の変化と,コンパウンド内における個人の役割の変化について検討し,市場自由化の影響による営農体系の変化について考察した。
その結果,コンパウンドに併存する共同体的営農と個人的営農という重層的な営農構造は,経済自由化という外部環境変化と人口増加による土地の細分化という内部条件変化にともない,それぞれがおかれた状況に応じて変化していることが明らかとなった。一部のコンパウンドでは,自家消費作物と販売作物の生産の分業化が進展してきており,現金獲得を営農目的とする農民も現れてきた。しかし,従来の自給的性格の強い農業は,コンパウンドメンバーに対する責任が強い家長や年配の農民が担ったままである。つまり,ガーナ北部では,市場自由化という外部環境の変化に対し,あくまでもコンパウンドを主体とする共同体的営農を優先させた上で,同時に個々の農民の役割を柔軟で流動的に変化させて個人的営農を進展させながら生活の中に市場経済を取り入れている。したがって,現時点において市場自由化の影響による営農構造の変化が,コンパウンドという生活の基本単位を維持することを無視して個別化が進むという方向性を見出すのは難しい。
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